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カズに憧れたヤンチャ小僧の28年間。
平本一樹、引退後は町田で次の夢へ。
posted2018/02/01 08:00
text by
海江田哲朗Tetsuro Kaieda
photograph by
Getty Images
「年が明けて、新しいシーズンが迫ってくるこの時期、もっとやりたい気持ちになるかな、身体がうずくかなと思ったんですが、案外そうでもなかったですね。むしろ、まったく動きたくない。現役に未練はありません」
平本一樹、36歳。東京ヴェルディの生え抜き選手として長くプレーし、2017シーズンをもってキャリアに終止符を打った。
ピッチを去って2カ月も経っていないが、表情から険しさが消え、ずいぶんと柔和な印象になった。
「もう戦いの場から降りたんで。自然と穏やかになりますよ。いいことじゃないですか、いいこと」
そう自分に言い聞かせるように言う。引退を撤回してほしいという打診も受けたが、丁重に断った。緑のシャツ以外を着る気は起きなかった。
1990年、平本は小3から読売日本SCジュニア(現東京V)のアカデミーに入った。1993年、Jリーグ開幕。隣のグラウンドではラモス瑠偉や三浦知良といったスター選手がボールを蹴っていた。
「あの頃は練習場に人が溢れていました。常に警備員がいて、練習を見るのもひと苦労。人波をかき分け、ネットにへばりついて見ていましたね」
カズ、ピクシー、エジムンド……誰もが規格外だった。
クラブハウス前の自販機、カズの後ろに平本たちが並ぶと「好きなのを買えよ」と千円札が投入され、颯爽と立ち去った。やることなすことすべてがカッコよく見え、たちまち虜になった。
プロデビューは1999年6月12日。ナビスコカップ(現ルヴァンカップ)2回戦、相手は名古屋グランパスエイトだった。この試合、ユース所属の身だった平本は2種登録選手として出場している。17歳だった。
「途中出場で左のサイドバックに入ったんですが、すぐに中盤に移され、ピクシー(ドラガン・ストイコビッチ)をマークしろと言われました。一回もボールを取れなかったです。そもそもボールがどこにあるのか見えなかった」
のちに東京Vでチームメイトとなる元ブラジル代表のエジムンドからも同じような衝撃を受けた。超一流のアタッカーはボールを触らせないどころか、巧妙に隠す技術を持っていた。