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アラフォーの星野仙一は強烈だった。
「巨人軍と面白く戦う」という奔放。 

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中溝康隆

中溝康隆Yasutaka Nakamizo

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photograph byKyodo News

posted2018/01/17 11:00

アラフォーの星野仙一は強烈だった。「巨人軍と面白く戦う」という奔放。<Number Web> photograph by Kyodo News

大型トレードでの落合獲得。選手としても監督としても、星野仙一は巨人を倒すために万事を尽くした人物だった。

「巨人戦での投球をほかでも見せれば200勝できた」

 冒頭の王貞治との食事シーンでは、異様な量の中華料理を食べる王さんに負けじと焼そばを頬張っていると「お前にこれだけマスコミから口がかかったのも、結局は巨人戦に頑張ったからなんだぜ。目の色を変えてオレたちに投げてきたから世間は認めてくれたんだ」と褒められる。

 当時の星野は新聞の日刊スポーツ、週刊誌では週刊文春、雑誌はNumber、テレビがNHKと、それまでの野球評論家では最も多いと言われるマスコミ媒体で活動していた。

 プロ14年間で通算146勝の自分より勝ち星を挙げている投手は他にいくらでもいる。だが、巨人に勝つことに俺ほど執念を燃やした投手はいなかったはずだ。

 普通なら登板2日前からの禁欲でいいのに、巨人戦前は最低3日間は女体を遠ざける。ON相手に投げると気力も体力も尽き果て、ロッカールームでタバコを一服した後はしばらく呆然として、ハッと我に返るとゲーム終了後1時間近くたっている。巨人に負けでもしたら、悔しくて悲しくて宿舎に帰っても食事が喉を通らない。

 巨人戦にはまるで日本シリーズ第7戦のようなテンションで臨むその姿に、盟友・山本浩二は星野に向かってよくこうからかったという。

「お前が巨人戦で見せたファイトを他のカードでも出していたら、楽に200勝はしていたろうよ。言ってみれば手抜きだぜ」

プロ2年目、ゴリ押しでの巨人戦連投志願。

 プロ2年目、23歳星野のエピソードも強烈だ。巨人戦でリリーフ登板して逆転ツーランを浴び負け投手に。あまりの屈辱にほとんど一睡もできずに翌日、監督室のドアを叩き、名将・水原茂に向かって「今日、もう一度先発で投げさしてください。どうしても巨人に仕返ししたいんです!」と直訴する。

 さらに投手コーチには「投げさせっ! 投げささんと、もう帰ってしまうぞ。もう投げんぞ!」なんて思い切り脅迫。もう無茶苦茶だ。プロ2年生がゴリ押しで先発志願。で、実際に投げさせてしまう水原監督の懐の深さ。

 その結果は……7回までノーヒット投球も、9回に長嶋茂雄に同点3ベースを打たれ、柴田勲のアンラッキーなタイムリー内野安打で万事休す。

 すいませんと謝る星野に水原監督は怒るのではなくその両手を握り、「立派だったぞ。こんなことで負けるな!」と励ますわけだ。たまらず食堂に駆け込み号泣する星野青年。これぞ巨人からドラフト1位指名すると言われながら、目前でスルーされた屈辱を胸に投げ続けた男の生き様である。

【次ページ】 銀座の女を口説けるくらいの強心臓になれ!

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