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車いす陸上界のエース・佐藤友祈。
「東京で金メダルを手にできれば」
text by
城島充Mitsuru Jojima
photograph byNaohiro Kurashina
posted2018/01/15 08:00
急激な成長を果たした佐藤友祈。その視線は2020東京へと向かっている。
頂点に立つために、何が足りないのかを考え続けた。
「頂点に立つために、何が足りないのかを考え続けました」と、佐藤は振り返る。
銀メダルを胸にかけた2種目とも、表彰台の真ん中にいたのは、アメリカのレイモンド・マーティンだった。ロンドン大会でも出場した4種目すべてで金メダルを獲得したT52クラスの絶対的な王者である。
スタートとラストスパートにおける爆発力が、マーティン最大の武器だった。逆に左手の握力が3kgに満たない佐藤は、どうしてもスタートの加速で遅れてしまう。
リオのあと、佐藤が取り組んだのは、苦手なスタートダッシュの強化だった。
「リオの1500mでは、マーティンに700mの地点で追いついたのですが、それまでに体力を使いすぎて、ラストスパートに対応できませんでした。もっと早い時点で追いつき、体力的にも精神的にも余裕をもって後半に勝負をかけるしか、マーティンには勝てないと思っていました」
わずか2秒の進化がニューヒーローを生んだ。
世界選手権が行われるロンドンに向かう時点で、佐藤は100mの通過タイムを2秒縮めていた。このわずか2秒の進化が、マーティンとの勝負の展開を大きく変えることになる。パラリンピック発祥の地である英国の大観衆が目撃したのは、いつものようにスタートから飛び出し、ゴール直前までパラ陸上史上に残るデッドヒートを繰り広げた王者のプライドと、ラスト1周のロングスパートでとてつもなく高い壁を乗り越えた日本のニューヒーローの姿だった。
「松永さんと相談して300mの地点でマーティンに追いつくレースプランを練りました。そのプラン通りに走れたことが最大の勝因です。この勝利は東京パラリンピックにつながる大きな一歩になりましたが、世界記録はマーティン選手が持っているので、まだ自分が本当の世界のトップだとは思っていません」
レース後の佐藤は謙虚に語ったが、2日後の400mでも再びマーティンを破って2つ目の金メダルを獲得すると、その背中に「日本の車いす陸上界のエース」という新たな看板がはりつけられた。