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宇野昌磨を育てた2人のコーチ。
師弟関係というよりも、信頼関係。
text by
稲田修一(Number編集部)Shuichi Inada
photograph byAsami Enomoto
posted2017/12/07 16:15
名古屋からフィギュアスケートの才能が次々と出現する背景には、2人(左:山田コーチ、右:樋口コーチ)の存在がある。
最近は振付も相談しながら2人で決めている。
一方の樋口コーチは、優しく微笑みながら次のように語った。
「昌磨も大人になってきたので、意見交換することが本当に多くなりました。もともとはしゃべるタイプではなかったのですが。今はすごく自分の意思がはっきりしてきましたね。シニア1年目の世界選手権、あれがやっぱりよかったかなと(2016年の世界選手権はフリーで転倒などのミスがあり、7位に終わった)。あの経験からはっきりと変わり、さらに昌磨を成長させたかなと感じてます。自分の課題を見つけて、こうしたい、こうして行きたいと意見を言うようになりました」
そうして今では、振り付けについても2人で相談しながら作り上げているという。
「最近、振付師は私と昌磨です。自分から『こうしたいんだけど、どう思う?』って感じで聞いてきます。あの子は理屈っぽいところがあるんで、あれこれこうしたいと言ってくる。私は『なるほどね。でもちょっと変だからこうしよう』と伝えたり、『いいじゃん、それ』と取り入れたりもします。
それで一度、『昌磨さ、振付師できるかもね』って言ったら、『絶対無理です。たぶん、自分のやりたいことばかりやってるから』って(笑)」
取材はリンクの横にある混雑したラウンジスペースで行ったのだが、樋口コーチが「ここで取材をするから」というと、子供たちは「いいよー」と言って、置いていた荷物を次々とどかしてくれた。取材中もかまわずに、周囲を駆け回っている。こうした家庭的な温かい環境があったからこそ、宇野は素直な心をそのままに、自身の才能を伸び伸びと花開かせることができたのだろう。
母性に包まれた宇野は、ある意味で無敵かもしれない。
山田コーチは宇野の性格について、こう見ている。
「昌磨は、あんまり人とベタベタするとか、上手に振舞ったりするのが得意ではない。人と付き合うのは嫌いではないけれど、でもおべっか使ってまでは嫌みたいで、割とストレートですね。でも向かってる先は間違ってないと私は思っています。彼なりに今の素直な気持ちのままで行けば、人間的にきっといい方向に行くんじゃないかなと。
今の昌磨に関して、ここをちょっと直さなきゃ、っていうのはまったくないですね。性格の面でも、練習に対しても、すべて、いいんじゃないかなっていうふうに思っています。真央や佳菜子にも思っていたんですけど、昌磨も立派なスケーターというより、やっぱりみんなに愛されるスケーターになってほしいですね」
そして宇野と二人三脚で平昌五輪へと駆け抜けていく樋口コーチに、「今シーズンを楽しんでいますか」と聞くと、こう答えてくれた。
「楽しみたいな、と思っています。楽しいと感じるときは、やっぱり気持ちよく滑ってくれてるときですね。だいたい、気持ちよく滑ってるときって、ジャンプが跳べるんですよね。こないだ(フランス杯)みたいなつらそうな滑り方してると、ジャンプも跳べないんで。気持ちよく滑ってくれてると、こっちも見てて気持ちがいいんです(笑)」
2人の名コーチの優しく温かな“母性”に包まれた宇野は、ある意味、無敵なのかも知れない。