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武豊、最内強襲を選んだ英断と信頼。
キタサンが最速の末脚で天皇賞制覇。
posted2017/10/30 11:30
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph by
Yuji Takahashi
現役最強馬がラストシーズンに、また新たな「最強の形」を見せた。
雨のなか、26年ぶりに不良馬場で行われた第156回天皇賞・秋(10月29日、東京芝2000m、3歳以上GI)を制したのは、1番人気に支持された武豊のキタサンブラック(牡5歳、父ブラックタイド、栗東・清水久詞厩舎)だった。勝ちタイムは、レコードより12秒2も遅い2分08秒3。このレースが1984年に2000mになってから最も遅かった。
土砂降りで「池みたいだったよ」と苦笑した騎手がいたほどの不良馬場。そこに、キタサンブラックが、ゲートに突進して顔をぶつけて出遅れるアクシデントが重なり、レースは意外な展開になった。
キタサンブラックは、ゲートを出てから最初のコーナーを後方5、6番手で回り、向正面に入った。
行くと思われていた大本命が先頭にも好位にもいないため、馬群全体が何やら戸惑っているようにも感じられた。
しかし、武は動じていなかった。
「必ずしも前に行くと決めていたわけではなかった。ちょっと気持ちが入りすぎていたし、もともとゲートには危ういところがあったので、やってしまいましたね(笑)。ただ、後ろから行くことになっても、各馬が内に殺到してこない馬場状態だったので、スムーズに運べました」
荒れたところを通っても走力が落ちないという確信。
ほとんどの馬が馬場の内目を避けて走ったのでコースがあいていた。これが良馬場だったらそうはならず、前が狭くなり、位置取りがさらに後ろになっていたかもしれない。
キタサンは自然と押し上げるような感じで中団につけた。しかし、前にも外にも馬群の壁があり、身動きがとれない状態だ。道中の行きっぷりが今ひとつだった宝塚記念同様、負けパターンにハマったかにも見えた。
ところが、3コーナー過ぎから状況が一変する。内をショートカットし、4コーナーで2番手までポジションを上げたのだ。荒れたところを通っても走力は落ちないと、武は確信していた。
「特殊な芝になっていたので、返し馬で走り方をチェックしました。普通の馬とは違う体の強さがあるので、こなせると思いました。馬は最高の状態だったし、リズムよく走りさえすれば強いんです」