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武豊、最内強襲を選んだ英断と信頼。
キタサンが最速の末脚で天皇賞制覇。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byYuji Takahashi
posted2017/10/30 11:30
3コーナーの仕掛け、内で待つ判断、直線のコース取りと武豊の騎乗がキタサンの力を完全に引き出した。
出遅れと極悪馬場のおかげで「最速の末脚」に。
直線に向くと、馬場のいい外目に持ち出し、スパートした。
ラスト400m地点で先頭に立ち、一気に突き放しにかかる。
外に張り出したキタサンと交差するように内に切り込んだサトノクラウンが猛追してきたが、詰め寄られるとまた伸びるのがキタサンらしさだ。
そのまま抜かせることなく、首差でサトノを抑えてフィニッシュした。
ラスト3ハロンはメンバー最速の38秒5。これまでは先行して押し切る競馬を勝ちパターンにしてきたので、最速で上がることはほとんどなかった。しかし今回は、出遅れと、内があく極悪馬場のおかげで、菊花賞以来2度目の最速の末脚を繰り出すことになった。
春の天皇賞ではスーパーレコードで驚愕させ、この日はレース史上もっとも遅い「逆レコード」で強さを見せた。
武が、キタサンの能力を信じていたからこそ見せることができた、もうひとつの「最強の形」と言えよう。
「それでもゴールで1着に持ってくる豊さんはさすが」
キタサンブラックにとって、これが6度目のGI勝利となった。天皇賞は、昨春、今春、そして今回と3勝。盾3勝は、テイエムオペラオーに並ぶ史上2頭目の快挙だ。JRAでの獲得賞金は14億9796万1000円となり、ディープインパクト(14億5455万1000円)を抜いて歴代2位。1位はテイエムオペラオーの18億3518万9000円だ。
武は、1989年スーパークリーク、'97年エアグルーヴ、'99年スペシャルウィーク、2007年メイショウサムソン、'08年ウオッカにつづく秋の盾6勝目で、春秋合わせて14勝目。なお、先述した26年前('91年)の不良馬場での天皇賞・秋では、メジロマックイーンに騎乗し1位入線するも最下位に降着となっていた。
北島三郎オーナーは、「有馬記念を勝つまでは封印」と宣言したとおり、『まつり』を歌うことはなかった。「感激です。この馬は神様からの贈り物です。私の体調が本調子ではないときに走ってくれて嬉しい」と感慨深げだった。出遅れに関しては「歌っていてもタイミングの合わないときがある」と笑わせた。「それでもゴールで1着に持ってくる豊さんは、さすがプロ中のプロ、腕の達者なところを見せてもらいました」と、武の「神騎乗」を讃えた。