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出雲駅伝の途中棄権はなぜ起きたか。
金哲彦が分析する、駅伝の特殊さ。
text by
金哲彦Tetsuhiko Kin
photograph byKyodo News
posted2017/10/18 07:30
13時05分にレースがスタート。午後の陽射しは強く、季節はずれの暑さとなった。
「ひ弱になったなぁ」という言葉も聞こえたが……。
レース後、古参の監督の口から「ずいぶん、ひ弱になったなぁ」という言葉が漏れ聞こえてきた。
確かに、かつて箱根駅伝で頻繁に見られた途中棄権のアクシデントは最近ほとんどなくなった。途中棄権をなくすために、給水ポイントが設けられた効果でもある。
久しぶりのアクシデントに、視聴者のみならず現場の指導者や選手たちは困惑しただろう。
確かに直接の原因は、暑さと湿度である。
とりわけ追い風で走っていた1区の選手にとって、適度な追い風は無風を意味する。つまり、サウナの中を走っている錯覚に陥る。
駅伝人気が生み出すプレッシャーという内的要因。
しかし、倒れた以外の選手たちは無難に区間を走りきっている。実は、筆者は天候以外の要因があると考えている。
それは、駅伝ならではの特殊な状況だ。
滑り出しの1区は、各校のエースクラスの選手が集まる。
エースとはいえ、5000mのベストタイムを比較すると、最も速い選手と遅い選手の差が1分くらいあることが分かる。
駅伝なので、1区の選手がスタート直後からマイペースで走ることなどあり得ない。
遅い持ちタイムの選手は、オーバーペースだとわかっていながら「ついて行けるところまで先頭集団についていく」心理になるのだ。
2キロくらいオーバーペースで走ってしまうと、選手の体は軽い酸欠状態になる。そこに追い打ちをかけるように強い日差しと高い気温湿度が襲いかかる。
チームのために死力を尽くさなければならない駅伝独特のプレッシャーの中、体に受けるダメージと心に起きるパニック状態が、途中棄権というアクシデントを起こしてしまうのだ。