スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
競技力と言葉の豊かさは比例する。
日本サッカーを見続ける92歳に学ぶ。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byTakuya Sugiyama
posted2017/10/15 09:00
「アイコンタクト」「間で受ける」「人もボールも動く」……様々な表現が生まれたが、これらの言葉を誰もが即座にイメージできるようにするのが重要だ。
岡田武史も、福原愛も感じた強豪国の表現力。
言葉については、元日本代表監督で、現在はFC今治の代表取締役会長を務める岡田武史氏がその重要性を説いている。
「日本には『サポート』という言葉しかないけれども、スペインには、『それぞれのサポート』を示す言葉があるわけです。『縦パス』にしてもいくつかの固有名詞がある」
これを読んで思い出したのは、卓球の福原愛に取材した時のことだ。福原はこう話していた。
「中国にはスマッシュを表現するにも、たくさんの言葉があります。感じとしては、30から始まって、120くらいまでの10段階刻みでスマッシュの強さを表せますね」
なるほど。それだけ、戦略の幅が広がるということだ。
またバックハンドのスマッシュについて、中国語では「抜刀」と漢字で書くと聞いた時は、思わず膝を打った。これは分かりやすい。中国で卓球は、相手と剣で渡り合うイメージだということが伝わってくる。
競技力の強さは、言葉の豊かさから生まれるというのは、取材を通して私が感じてきたことでもある。
日本語で濾過することで、日本ならではの発想を。
岡田氏はサッカーの世界で、言葉を作ることで競技力をアップさせようとしている。
「彼らは特別なことをやっているのではなくて、言葉があるんです。日本には言葉がない」
翻訳せず、そのまま使うのでもいい。しかし、日本語で濾過することによって、日本ならではの発想を得ることも可能だ。
賀川さんと岡田氏の対談を読むと、一刻も早く、言葉がピッチ上で形になるのが待ち遠しい。
そして、川淵三郎氏との対談では「大局観」が語られる。日本が世界で戦うための大きなプランを描くとき、アジアを巻き込むことが肝要だと川淵氏は言う。
「アジアのサッカーがヨーロッパ・南米に比べてレベルが低いので、ヨーロッパと匹敵するぐらいのレベルまで引き上げないと、日本のサッカー全体のレベルも上がらないし、人気も上がらない」