スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
競技力と言葉の豊かさは比例する。
日本サッカーを見続ける92歳に学ぶ。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byTakuya Sugiyama
posted2017/10/15 09:00
「アイコンタクト」「間で受ける」「人もボールも動く」……様々な表現が生まれたが、これらの言葉を誰もが即座にイメージできるようにするのが重要だ。
日本だけでアジアの中で強くなるなんて不可能。
特に問題としているのは、中国だ。
習近平はサッカー好きで、いろいろな施策をしようと試みているそうだが、結果にはつながっていない。しかし、中国の低迷は歓迎すべきではなく、むしろ憂慮すべき問題だと川淵氏は賀川さんに語る。
「問題は、日本だけでアジアの中で強くなるなんてことは不可能だということ。特に中国に前から僕は関心を持ってるんだけど、中国の若手選手の育て方って全然だめですよ。一握りの40~50人の選手を3、4年間南米とかヨーロッパでキャンプを張らせてそれが代表になればいい、ということをやってる」
中国が強くなってくれなければ、日本としても強化の機会が限られてしまうというのだ。J1所属の中国人選手がいない状況の読み解き方など、ひじょうに興味深い。
「夢がないですね、金がありすぎて」
『このくにのサッカー』を読むと、年長者の自由な発言に拍手したくなったりする。
2017年2月に亡くなった岡野俊一郎氏は現在の日本サッカー協会について、「ひとことで言えば、財政が豊かすぎます」とバッサリと斬る。
お金があることはいいことじゃないか。凡人なら、そう考える。しかし、岡野氏はサッカー協会が苦境に立っていた時代のことを知っている。そして、「豊かさゆえの貧しさ」を指摘する。
「財源が豊かになったのはいいんですが、例えばナショナルチームだけを言えば、4年間外国人の監督を呼んで、何億という金を払って、勝ち負け、成績、終わったら反省も分析もなし、また新しいのを呼ぶ。夢がないですね、金がありすぎて。金を大事にしなきゃだめですね」
今年の暮れに、賀川さんは93歳になる。
この本には、賀川さんと、日本のサッカー界を作ってきた人たちのアイデアがぎっしり詰まっている。
読んだ後、日本サッカーの将来を楽観視してはいけない――私はそう感じたが、みなさんはどう感じるだろうか。