イチ流に触れてBACK NUMBER
イチローが今季探した代打の奥義。
「今の自分は嫌いじゃないです」
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byKyodo News
posted2017/10/12 11:30
今季最終打席を終え、ベンチで汗を拭うイチロー。今もなお、新たな自分に気づく野球人生を送っている。
打つのが簡単になる瞬間がある。しかし代打は……。
メジャー17年目のシーズンは136試合に出場し、196打数50安打、3本塁打、20打点、打率.255。出場、安打ともに最小の数字に終わった。
リーグ屈指の外野トリオとも称される平均年齢26歳のスタントン、イエリチ、オズナが打線の中軸を担い、その3人に怪我もなければ、先発が少なくなるのはシーズン前から想定内だった。だが、先発出場はわずかに22試合。ここまでの少なさは想定外だった。16年の62試合にも遠く及ばず、来る日も来る日も代打稼業が続いた。
打撃は足し算と考えるイチローにとって1日1打席は「リセットの連続」であり、打席数を積み重ねることで研ぎ澄まされていく打撃感覚を構築できずに苦しんだ。その結果、5月終了時点での打率は.176。代打の難しさを痛感していた。
「(代打は)何かを悟ることはないですね。毎日レギュラーで出ていれば、打撃だけは簡単になる。打つことは簡単になる瞬間があるんですよ。代打ではそれは絶対にないですね。(メジャーは)これだけ長い歴史があっても28本という数字にそれが集約されていると思うんですよね」
「通常の状態」を見つけた自分を肯定する。
それでも転機はやってきた。
6月8日からのピッツバーグでの4連戦で3安打、1本塁打。レギュラー時代でも1カ月、100打席はかかった微調整を80打席ほどで終え、形にした。後半戦の打率は.299。代打では打率.273。1日1打席でもイチローはイチローだった。
「通常の状態になるまで2カ月以上かかりましたから。6月のピッツバーグからです。1日1回だけですから。それも仕方ないですよね。それで見つけられなかったら、どうしようもない。それを今回も見つけましたから。今の自分は嫌いじゃないです」