炎の一筆入魂BACK NUMBER
離脱者さえも連覇の戦力にした広島。
選手層より大切な「カバーする力」。
posted2017/09/25 11:50
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Nanae Suzuki
9月18日、甲子園球場のマウンドに歓喜の真っ赤な輪が生まれた。そこへ球団スタッフに肩を借り、歩み寄る鈴木誠也を松山竜平は笑顔で迎えた。37年ぶりの広島連覇の強さを示すシーンだった。
今年も、広島の打線は強力だった。打線が束になってかかる集中打。足を絡めた攻撃は他球団を圧倒していた。ただ、ミスから失点を許す場面もあり、接戦に競り負けるもろさも見せた。
すべてが他球団よりも勝っていたわけではない。それでも頂点まで上りつめたのは、広島の選手層の厚さがある。ただ、層が厚いだけでなく、ほつれても補う「カバーする力」が広島の強さだった気がする。
開幕直後には大黒柱のクリス・ジョンソン、その後は抑えの中崎翔太、野村祐輔も腰の違和感で一時チームから離れ再調整を余儀なくされた。野手では昨年12月に胃がんを公表した赤松真人。シーズン終盤には鈴木誠也が右足首の負傷で離脱した。
松山「4番は誠也。僕は4番目」
優勝がかかったシーズン終盤、4番として広島打線をけん引していた鈴木の離脱は、チームに大きな動揺を与えかねなかった。さまざまなシチュエーションを想定し、変幻自在のオーダーを組んできた広島の頭脳・石井琢朗打撃コーチでも「これは想定していなかった」と頭を抱えていたほどだった。
だが「代役」の松山が流れを止めることなく、ラストスパートの立役者となった。9月に入り、相手投手に関係なく4番を託されるようになると、優勝が決まる18日まで打ちまくり、新たな打線の中核を担った。
打線に好循環を与える働きを続けても、松山は「4番」という言葉を使うのをこばんだ。常に「4番は誠也。僕は4番目」と言い続けた。
「今年は誠也が苦しみながらも引っ張ってくれた。今年のチームの4番は誠也。それに誠也がいて、4番なら4番と言えるかもしれない。でも誠也がいない中の4番は、代役でしかないでしょ」
今季開幕前には「(昨年まで4番の)新井さんから4番を奪いたい」と4番奪取を宣言していた男のプライドがにじむ。
離脱した鈴木は、リハビリ中にチームが勝てば喜び、負ければ自分が離脱したことを責めた。そしてそれ以上に危機感を募らせた。以前から「代わりがいるということはレギュラーではない」と口にしてきた。負傷離脱したことの悔しさだけでなく、「これだけ離れることになれば、当然怖い」と闘争本能は失っていない。