濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
AKBメンバーの試合に聖地熱狂!
『豆腐プロレス』興行という脅威。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by(C)WIP2017製作委員会(C)AKS
posted2017/09/01 08:00
メイン後の4人。写真左から、道頓堀白間、ハリウッドJURINA、チェリー宮脇、ロングスピーチ横山。JURINAは「いつ何時でも誰の挑戦でも受ける」とコメントを残した。
選手(アイドル)たちは、プロレスの深淵を覗いた!?
ドラマ『豆腐プロレス』のキャッチコピーには「ガチプロレス」という言葉が使われている。「ガチ(ンコ)」とはそもそもが相撲、プロレス界の隠語だから、あまりにもデリカシーがない。この大会を報じる芸能メディアの「ガチの試合を行ない」といった文章にも閉口する。メンバーが口にした「ガチ」は「真面目にやっている」といった程度の若者言葉だろうから微妙なところではあるのだが「誰か大人が教えてやれよ」とも思う。
大会の中に“作りごと”だけではない部分があったのも確かだ。
たとえば、シャーク込山(AKB48・込山榛香)が試合後に叫んだ「私たちは次世代、次世代って言われるけど今なんだ! 私たちが新しい時代を作る!」という言葉は、劇中のレスラーのものであると同時にAKBメンバーとしての思いでもあるはずだ。
ストロベリー向井地からヒールに転じたブラックベリー向井地(AKB48・向井地美音)は、観客に向かって「地獄に落ちろ、バーカ!」。SNS時代のアイドルがそう言うと、何か猛烈に痛快なのであった。
メインで敗れた横山は「勝って終わりたい。勝つまでやりたいです」とコメントした。
宮脇も「役との境目がなくなって、本当に悔しかった。ここまでガチ泣きしたのは初めてかもしれないです」。
2人がプロレスの真髄を掴んだとまでは言わない。けれども宮脇も横山もプロレスの深淵、その入り口を見てしまったのではないか。そうなったら、もうやめられないはずだ。
〈クイウチ松村〉の涙の理由は……。
松村が試合後に見せた涙にいたっては、ヒールとしてのキャラクターを完全に逸脱していた。その意味はなんだったのだろう。本職のレスラーを相手に試合をやりきった充実感、あるいは安堵か。
アイドルなのにペイントを施した顔を歪め、2人で悪役になりきったパートナー・島田への惜別の涙だったのかもしれない。
試合後のマイクアピールによって、〈ユンボ島田〉は海外遠征に旅立つことになった。これはストーリー上のことだが、島田は実際にAKBを卒業する。松村の涙は、ファンにとってドラマ、プロレス、現実のアイドル人生すべてに想いを馳せさせるものだった。また一瞬の表情にあらゆる意味を(勝手に)見出してしまうものなのだ、アイドルファンやプロレスファンは。