ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
試合前の嫌な予感と王座陥落。
山中慎介が挑んだV13の紙一重さ。
posted2017/08/16 11:30
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
WBC世界バンタム級チャンピオンの山中慎介(帝拳)が15日、京都市の島津アリーナ京都で13度目の防衛戦を行い、同級1位の挑戦者、ルイス・ネリ(メキシコ)に4回2分29秒TKOで敗れた。
13度の防衛は、1980年に具志堅用高氏が打ち立てた世界タイトル最多連続防衛の日本記録だったが、山中はこの不滅と思われた大記録に並ぶことはできなかった。
胸が締め付けられるように苦しかった。満員の会場に大音量で鳴り響く入場曲「龍馬伝」を、これだけ緊張しながら耳にするのは初めてのことだった。
今回ばかりは負けてしまうのではないか─―。
そう思わずにはいられなかったからだ。2010年に長谷川穂積が11度目の防衛戦に失敗したときも、'16年に内山高志が12度目に敗れたときも、試合前にこんな気持ちにはならなかった。
「練習と本番が違う」という言葉に一縷の望みを。
ここ1年で近年のボクシング界をけん引してきた内山、八重樫東(大橋)、三浦隆司(帝拳)が立て続けに敗れ、嫌なムードが漂っていた。山中自身、防衛を続けているとはいえV10、V11戦ではダウンを喫するなど、ここ数戦は不安定な内容が目についていたことも理由のひとつだ。
そんな状況の中、試合6日前に行われた公開練習は、嫌な予感を打ち消すどころか、さらなる不安を煽り立てる結果となった。山中の動きは鈍く、軽めのスパーリングでは、パートナーのパンチを簡単にもらってしまうシーンが目についたのだ。
もちろん試合前の公開スパーリングなど、報道陣向けのデモンストレーションと言ってしまえばそれまでだ。山中はもともと練習で圧倒的な強さを常に見せる選手ではない。帝拳ジムの本田明彦会長が「あんなに練習と本番が違う選手はいない」というように、本番に強いのが山中の持ち味でもある。試合前の数日で、グッと状態が上がることも珍しくはない。