松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER

「怒らないで、やってみようかな」
穏やかな松山英樹は本当に強かった。 

text by

舩越園子

舩越園子Sonoko Funakoshi

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photograph bySonoko Funakoshi

posted2017/08/08 11:45

「怒らないで、やってみようかな」穏やかな松山英樹は本当に強かった。<Number Web> photograph by Sonoko Funakoshi

全米プロの前哨戦で驚異的なスコアで優勝したことで、松山英樹は全米での優勝予想でもかなり上位にランクインしている。

デビュー以来メディア対応は得意ではなかったが……。

 プロデビュー以来、メディア対応を得意とはせず、とりわけ囲み取材のときは渋い表情になって、あまり多くを語らなかった松山が、ふとした経験から「淋しい」、そして「楽しい」と感じるようになった。

「案外、それも悪くないさ」と受け入れてみたら、思いのほか楽になったのかもしれない。全英オープンでもブリヂストン招待が始まったときも、松山は終始、穏やかな表情で思ったことを素直に表現していた。彼が挑んだメンタルコントロールは、そうした経緯の延長線上にあった。

「谷さんやDJが怒らないでやっているのを見て」

 「谷さん(谷原秀人)やDJ(ダスティン・ジョンソン)が怒らないでやっているのを見て、自分もやってみようかな、って」

 自分は怒りすぎているのだろうか?怒らないでやると何がどう変わるのだろうか?やってみなけりゃ、わかるはずもない。

「やってみようかな、って。それが、たまたま、今週だった」

 松山はその挑戦に忠実に取り組んでいた。だからこそ、初日の7バーディー、6ボギーを「珍しいゴルフ」と受け入れ、上位に立っても気負わず、過度に期待せず、プレー中でも子供たちとロータッチを交わした。取材にも和やかに対応し、自分の気持ちを素直に見つめ、さらには、それを自分なりの言葉に変えて私たちに伝え、共有してくれた。

「メンタルコントロールして、ハイにならないようにしたら、うまくいった」

 それは、松山が味わった初めての、そして確かな手応えだった。

 今週は今季最後のメジャー、全米プロに挑む。優勝の余韻を噛みしめる間も無く、その夜のうちにプライベートジェットでオハイオからノース・カロライナへ飛び去っていった松山。

「メジャーに勝ちたいけど、その気持ちが前に出ちゃうと良くないので、その気持ちをぐっと抑えて、また練習したい」

 ジョーダン・スピースらは、勝利への渇望を剥き出しにして、喜怒哀楽を思い切り見せながら挑んでいるが、松山はそんな他選手たちを傍目に、自分を見失わないと心に決めている。

「自分が(スピースらのように)ああやったら、自分が自分でなくなる気がする。自分は気持ちを抑えてやったほうがいいのかな」

 それが、今の自分。それが、今の松山英樹。

「今の自分が僕なので」――。

 一流ゴルファーにして哲学者の言葉が、いつまでも胸に残った。

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