松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
「怒らないで、やってみようかな」
穏やかな松山英樹は本当に強かった。
posted2017/08/08 11:45
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Sonoko Funakoshi
ブリヂストン招待で見事な逆転優勝を飾った松山英樹が表彰式で優勝トロフィーをうれしそうに眺め、無邪気な笑顔を見せた。トロフィーを抱いたままの松山は、ときどき重たそうにトロフィーの台座部分を太ももに乗せていたが、誰かにどこかに置いてもらうとか、そんなリクエストはついぞ出さず、重たくてもずっと抱えたまま離さない。その様子がなんとも愛らしかった。
いざ、優勝スピーチ。米ツアー通算5勝目の今回こそは「英語で?」という周囲の期待は少なくなかった。松山自身、それは重々承知している。実を言えば、優勝会見でも米国人記者たちから、英語やアメリカでの生活環境に関する質問はいくつか飛び出した。
しかし、松山はこんな言葉で彼らに答えた。
「英語がもっと喋れると、もっとストレスがない楽しい場だと思うけど、今はゴルフが大事なので、なかなかそこまで頭が回らない。それも含めて今後の課題。もっと英語が喋れたらいいけど、今の自分が僕なので」
素直で正直で、そして哲学者のようなフレーズだった。それはきっと、彼が自問自答を繰り返した末に見つけた1つの答えだったのだと思う。
目指しているのは高く険しい山の頂きだが、今は無理も無茶もせず、今の自分、今の状況をそのまま受け入れる。そこから先は、先になってから考えればいいではないか。
「今の自分が僕なので」――。
そう「今の松山英樹」だったからこそ、難コースのファイアストンで見事な勝利を飾ることができたのだと思う。
6ボギーの初日を「珍しいゴルフ」と受容。
思えば、「今」を受け入れる姿勢は、今大会の初日から見られた。「7バーディーを奪いながら6ボギーを叩いた内容はどうですか」と尋ねると、以前の松山なら「6つもボギー叩いているようじゃ話にならない」などと腹を立てながら自嘲気味に答えるところだが、あの日の彼は頷きながら「7つ取って6個ボギーは、なかなかない。珍しいゴルフをした」と穏やかに受け入れていた。
ショットもパットも彼が心底、満足のいく状態ではなかったが、「いいのもあれば悪いのもあった」「いいショット、入るパットは徐々に増えている」と前向きで、苛立ちを見せることはなかった。