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マクラーレンと契約解消? F1撤退?
ホンダを巡る不穏な噂の真偽は……。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAFLO
posted2017/07/15 09:00
第9戦オーストリアGPでは頼みのアロンソが追突されて不運なリタイア。マクラーレンはいまだ2ポイントでコンストラクターズ最下位に沈む。
「噂は不安なものほど広がりやすい」という法則。
にもかかわらず、なぜ噂は広がったのか。
心理学の世界では、「噂は内容が不安なものほど、広がりやすい」と言われている。不安な気持ちになるほど、誰かとその不安を共有したくなるからだという。ホンダのパワーユニットではマクラーレンはこのままずっと勝てないというイギリス人の不安が、マクラーレンとホンダの契約解消報道につながっているというわけだ。
これは日本人にも当てはまる。
日本人の不安は、せっかく長谷川祐介氏が総責任者に就任して戦える体制になったのに、今年成績が出ないことで、長谷川総責任者がその責任を取らされるのではないかというものだ。
もちろん、山本部長はこれも否定する。
「今後も、長谷川総責任者体制に変わりはありません。確かに今シーズンの結果だけを見れば、復帰した'15年と同等かそれよりも厳しいことは確かです。ただ、技術的には昨年までのエンジンでは限界も見えていた。そこでわれわれは2017年以降に頂点を狙っていくために、昨年の8月に新しいチャレンジを選択した。それは長谷川ひとりが決めたことではなく、ホンダの総意であり、それはマクラーレンにも説明して納得してもらっています。それを今年成績が出ないからといって、長谷川ひとりに責任を転嫁するようなことは、われわれは絶対にしません。それは八郷(隆弘/社長)も同じで、そのような噂が出ると『なんでこんな噂が出るんだ』と呼びつけられるほどです」
ホンダが撤退する、という可能性は……?
もうひとつ、日本ではこんな噂もある。
「このままでは、ホンダはF1から再び撤退するのではないか?」という不安から来る憶測だ。
しかし、ホンダはその噂も完全に否定した。
「撤退はありません。私はホンダの取締役会の役員や八郷と話し合っていますが、そこに撤退という文字はありません。むしろ、八郷からは『前進できるように頑張ってやれ』と毎戦、檄を飛ばされています。社長の八郷がホンダF1の一番の応援団です」
来シーズンに向けて、さまざまな契約事が更新されていくこれからの数カ月、F1の世界ではこれまで以上の噂が沸き起こる。それをF1界ではシリー(馬鹿げた)シーズンと呼ぶ。
「流言は知者にとどまる」ということわざがある。根拠のない噂は心ない大衆によって流布されるが、判断力のある賢明な人は、それらを簡単には信じず、自分の胸の中でとどめておくので広まらない、という意味だ。愚人になるか、賢者になるか――それはあなた次第だ。