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疑惑の敗戦からわずか3日後。
なぜ村田諒太は微笑んでいたのか?
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2017/06/08 14:00
インタビュー時の村田の姿。傷の無い顔、穏やかな笑み……とても3日前に敗戦した選手とは思えない静かな雰囲気だった。
インタビューでいきなり驚かされた、村田のセリフ。
「楽しかったですよ――」
そんな一言からインタビューは始まった。
二宮氏がその「楽しかった」の理由を1ラウンド目から丹念に聞いていく。そのうちに村田が笑える理由が明らかになっていった。そして、インタビューも半ば、ある意味で衝撃的なフレーズが飛び出した。
「あの試合で僕が失ったものはないんです」
このコメントだけを額面通りにとらえるならば、とても頷くことはできないはずだ。村田はプロデビューから4年、ずっと待ち望んでいたあの試合で手にしていたはずの勝利も、ベルトも失ったではないか。
ただ、真っすぐに前を見ながら紡ぎ出す、その言葉を聞いていると、このセリフにも妙に納得がいくのである。
村田の経歴は“つくられた無敗レコード”ではない。
ボクシングの世界には「無敗」の肩書きを持つ者が数多く存在する。
「デビュー以来、無傷の◯連勝」
そんなキャッチフレーズをよく耳にする。
ボクシングにおける1敗は、他の競技におけるものとは意味合いが違う。1つの敗北が選手生命の終わりとなることもあるし、場合によっては命にも関わる。だから、格下相手の慎重なマッチメークによって“つくられた無敗レコード”が少なからずあるのも事実だ。
村田もこの試合を迎えるまで12戦無敗のボクサーだった。ロンドン五輪金メダリストのイメージそのままに「無傷のゴールデンボーイ」だった。だが、インタビューの中で彼はこれまでの12回の勝利よりも、今回の1敗によって得たものの方がはるかに大きいということを語っている。
今まで自分がまとってきたものがメッキだったのか、本当の黄金だったのか。それがわかったと――。