Number ExBACK NUMBER
疑惑の敗戦からわずか3日後。
なぜ村田諒太は微笑んでいたのか?
posted2017/06/08 14:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
どんな顔で迎えればいいのか。5月23日、都内ホテルの一室にはちょっとした戸惑いの空気が流れていた。Number928号に掲載を予定していた、ボクサー村田諒太のインタビュー。予定の午後3時にはまだ時間がある。スポーツライター二宮寿朗氏とともに本人の登場を待ちながら、その心情を想像していた。
5月20日、村田にとって初の世界タイトルマッチはWBA世界ミドル級1位アッサン・エンダムから4ラウンドにダウンを奪い、何度もグラつかせ、パンチの威力で勝りながらも1-2の判定で敗れた。
「ええ~っ!」
判定の結果が読み上げられた瞬間、有明コロシアムを埋め尽くしたあの大音量のどよめきの中に私もいた。リングに目をやると自分が勝者であると疑わなかった村田がロープにもたれかかり、しばし呆然としていた。その姿にいたたまれなくなり、早めに会見場へと向かったのを覚えている。
敗戦の傷は? 拍子抜けするほど明るかった村田。
インタビューが行われたのは、それからわずか3日後のことだった。
まだあの音も、光景も、鮮明に残っていた。だから、村田がどんな顔でこの部屋に入ってくるのか、正直わからなかった。もしかすると同情や、慰めが必要なのかもしれない。それが戸惑いの理由だった。
「こんちわ~」
午後3時きっかり。爽やかな笑顔とともに静寂が破られた。ほとんど傷の残っていない顔で、拍子抜けするほどの明るさをたたえながら村田はやってきた。
まだ世の中にあの夜の出来事に対する疑問や賛否が渦巻いている中で、当の本人だけがそこから解き放たれているようだった。