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大迫傑、初マラソン3位のインパクト。
日本陸上の非常識は米国では常識?
text by
金哲彦Tetsuhiko Kin
photograph byShota Matsumoto
posted2017/04/21 11:30
ペースメーカーのいないボストンマラソンで快走を見せた大迫。2時間9分37秒で1位となったジェフリー・キルイと51秒差でゴールした。
あまりに早く準備させてしまうことのデメリット。
大迫がツイートした2月21日は、ボストンマラソンの約8週間前だった。
日本のトップアスリートは通常、フルマラソンのトレーニングに入るための準備期間に3カ月、実際のトレーニングに3カ月の期間を設けている。つまりレースから逆算して、ほぼ半年かけて準備とトレーニングを行っている。
もちろん、その中でどのレースを目標にするかは、コーチから選手に前もって伝えられ、そして選手自身も時間をかけて心構えをしていく。
ただし、これは日本での考え方であり、さまざまな常識を覆してきたナイキ・オレゴンプロジェクトのやり方は違うのかもしれない。
マラソンを走りきるトレーニングはいつでもできている。あまりに早いタイミングで伝えると、初マラソンの選手としては考えすぎて心理的な負担がかかってしまうかもしれないという判断だ。
10000mを走った8日後にマラソンに挑んだ選手も。
そもそもナイキ・オレゴンプロジェクトは、金メダリストのモハメド・ファラー(イギリス)を筆頭に世界のトップアスリートを擁し、年間を通じて科学的かつハードなトレーニングを行っている。
たとえば、長距離選手の住居が低酸素室になっており、標高の高い地方に遠征することなく生活の中で心肺機能を強化できる環境を整備している。潤沢な資金と優秀な人材が投入されているのだ。
ボストンマラソンで2位となり、チームメイトでもあるゲーレン・ラップは、リオ五輪で規格外の偉業をやってのけた。
10000mを27分8秒92の5位で走ったわずか8日後のマラソンを2時間10分5秒で走破。マラソンデビューから2回目で銅メダルを獲ったのだ。
この事実を見ても、ナイキ・オレゴンプロジェクトではトラック競技とマラソンのトレーニングの垣根があまりないことが想像できる。
これはあくまで筆者の想像ではあるが、丸亀ハーフの結果を分析したコーチが、大迫の初マラソンはボストンでいけると判断したのではないだろうか。