プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「次も行くぞ!」「勘弁してください」
WBCで化けた千賀滉大の精神力。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKyodo News
posted2017/04/13 17:30
今季初勝利の直後、工藤監督と握手をかわした千賀。WBCが投手としての千賀を一回り大きく成長させたのは間違いない。
“泣き”が入っても、きっちり無失点に抑えた千賀。
本人から“泣き”が入ったこの場面も、なだめすかして「お前しかいないんだ。打たれたらすぐに代えてやるから」と6回のマウンドに送り出した。
結果は二塁打1本は打たれたものの、無失点だった。
この投球内容を見て、権藤コーチは3日後の2次ラウンド最終戦となるイスラエル戦での先発も決めたという。
「先発を伝えた時、『嫌です!』って言っていましたけどもね」
イスラエル戦では5回を投げて63球、1安打無失点。米国での決勝ラウンド進出がかかる猛烈なプレッシャーの中で見事な投球だったが、最後は左ふくらはぎをつって自ら降板を申し出た。
自らの心と徹底的に向き合う……それが千賀のWBC。
こうした登板の1つ1つが、今までにない経験として千賀の心に塗り込められていった。
準決勝の米国戦では2番手で1失点したが、マウンドに上がった7回には3者連続三振を奪う鮮烈な投球を見せた。
「あんなフォークは見たことがない」
8回2死三塁で空振り三振に倒れたマーリンズのクリスチャン・イエリッチが驚嘆のコメントを残したように、千賀の持つポテンシャルは間違いなくメジャー級であることを証明する戦いだったのである。
「自分はこんな集中できるんだ。これが集中力なのかと思いました」
準決勝を終えた千賀の言葉だった。
心の優しさ、心の不安定さ、心の弱さ――マウンドに上がるたびに、向き合ってきた最大の敵と戦う手がかりを得た。
それが千賀のWBCだったのである。