プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「次も行くぞ!」「勘弁してください」
WBCで化けた千賀滉大の精神力。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKyodo News
posted2017/04/13 17:30
今季初勝利の直後、工藤監督と握手をかわした千賀。WBCが投手としての千賀を一回り大きく成長させたのは間違いない。
「次も行くぞ!」「勘弁してください」
3番に座るレッドソックスのザンダー・ボガーツを外角ストレートで見送り三振、第2打席に2ランを放っているヤクルトのウラジミール・バレンティンをフォークで空振り三振に打ち取りランナーをクギ付けにしたまま2死までこぎつける。
そしてポスト・ジーターとしてヤンキースの正遊撃手を張るディディ・グレゴリアスを一塁へのゴロに打ち取って、何とか無失点でベンチに帰ってくる。
すると息をつく間もなく権藤博投手コーチがこう声をかけた。
「次も行くぞ!」
その途端に千賀から返ってきたのが「勘弁してください」という“泣き”だったのだ。
ボールが暴れても、思い切って腕を縦に振れ!
「彼は気持ちが優しいんですよ」
権藤コーチの千賀評だ。
150キロを超えるストレートと、いまや代名詞ともなった“お化けフォーク”でガンガン、三振を奪っていく投球スタイルからは想像できないが、千賀は決して向こうっ気が強いタイプの選手ではないという。
「彼のピッチングを見て1つだけアドバイスをしました。お前の持ち味はボールが暴れることだ。だから暴れないようになんて考えなくていい。その代わり思い切って腕を縦に振りなさい。そうすればバッターは必ずあのフォークに手を出してくる、と」
持っている能力は侍ジャパンの投手の中でも指折り。だから気持ちを奮い立たせてマウンドに送り出しさえすれば、必ず結果は出ると自信を持たせることだけを考えた。