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200m平泳ぎの世界記録を持つ日本人。
渡辺一平の、感情を整理する力。
text by
伊藤華英Hanae Ito
photograph byAFLO
posted2017/04/12 11:00
平泳ぎの、そして水泳界の顔であった北島康介氏。渡辺一平は、彼の後を継ぎ、そして塗り替えていく存在だ。
起こる全てのことをポジティブに理解する力。
その言葉通り、渡辺選手は準決勝では2分7秒22のオリンピックレコードを出し、全体の1位で決勝に進んだ。
直前に泳いだ坂井選手は、早稲田大学の先輩でチームメイト。オリンピック直前のメキシコ合宿で、きつい練習を共にした仲間だ。その坂井選手が、会心のレースで200mバタフライで銀メダルを獲得していた。後半の追い上げを目の当たりにした感動は今でも鮮明に思い出せる。
そして渡辺選手自身の決勝は、4コースのセンターコースだった。入場順も最後なので、想像することすら難しい緊張感だったことだろう。
準決勝のタイムは1位であり、「もしかしたら……」と周囲は当たり前に期待する。
結果は6位入賞。
悔しいに決まっているが、渡辺選手はいつも前向きだ。それも彼の特徴かもしれない。
自分の感情を整理する力がある。
「すごく意欲的になってしまった」
「6位はまずまず」と結果と感情を消化し、いたって冷静に話しているように見える。まさにポジティブ。
どんなことでも、否定はしない。次に繋がるという雰囲気を交えて話す。
初めてのオリンピックで、全ての体験をポジティブに考えられる思考は、今後に必ずプラスに働く。つまり、悔しさを自分の糧にできるタイプだ。
現役選手は、世界記録を目指すものだ。
1月の東京都選手権の世界記録もきっと、彼にとっては決してゴールではない。
現役時代、私も世界記録をオリンピックで出したいといつも考えていた。今になると信じられない話だが、1番を目指すことは、世界と戦って行く中ではノーマルなことだ。
逆に、良いレースをすると、次のレースへのイメージがその「いいレース」のイメージから抜け出せない場合もある。しかし渡辺選手を見ていると、彼の思考はきっと、一番いいレースは次のレース、という風になっているのだろうと思う。
オリンピック明けの日本選手権。着実に自信をつけて欲しい。