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村田諒太、やっと実現した世界戦。
マッチメークが困難を極めた事情。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2017/04/05 08:00
ロンドン五輪から約5年、村田の周囲が水面下でタフな戦いに身を投じたからこそ、今回の世界戦が実現した。
対戦相手のエンダムは「やりにくい」タイプ。
エンダムは元WBO王者の肩書きを持ち、昨夏、カメルーン代表としてリオデジャネイロ五輪に出場したことでも注目された。昨年12月、初回22秒でKO勝ちした試合が米主要メディアのノックアウト・オブ・ザ・イヤーに選ばれたため、強打者の印象を与えるが、どちらかといえばテクニックに長けた「やりにくい」タイプの選手と言えるだろう。
ウイークポイントは打たれ弱さ。しかし、これも弱点と言えるかどうかというとちょっと微妙だ。エンダムはピーター・クイリン(米)とのWBOタイトルマッチで6度ダウンし、デビッド・レミュー(カナダ)とのIBFタイトルマッチでは4度ダウンした。
ところがいずれもKO負けではなく、その都度立ち上がって判定決着まで持ち込んでいる。しかもダウン以降のラウンドを優位に進めたのである。
竹原慎二以来となる日本人ミドル級王者誕生なるか。
このあたりは村田も自覚していて「ひと筋縄でいくような相手ではない。間違いなくタフ・ファイトになる」と予想する。本田会長は「村田が勝っているのはパワーと学習能力の高さ。あと1か月半でどこまで伸びるか」と最後のひと伸びに期待を寄せる。すでにメキシコ人パートナー2人が村田とスパーリングをしているが、今後はエンダムと同じ黒人選手2人をアメリカから呼び寄せる予定だ。
海外から4人もパートナーを用意するのは異例で「絶対に村田を勝たせる!」という陣営の並々ならぬ意気込みが伝わってくる。
ミドル級で世界を手にした日本人選手は1995年にWBA王座を獲得した竹原慎二氏ただひとり。'64年の東京五輪バンタム級で金メダルを獲得した桜井孝雄氏(故人)はプロ転向後、'68年の世界タイトルマッチに敗れ、ついに世界王座には手が届かなかった。
村田は「だれもメダルを獲ると思っていなかった」という2011年の世界選手権で銀メダルを獲得し、翌年のロンドン五輪ではしぶとく勝ち抜いて金メダルに輝いた。ゴールドの拳を持つ男は、プロの世界でも持ち前の勝負強さを発揮するのか─―。決戦に向けたカウントダウンが始まった。