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勇人と寿人の眼は、まだ死んでない。
J2で実現した8年ぶりの双子対決。
posted2017/03/19 07:00
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
促されて2人が肩を並べると、取材陣がドドドと駆け寄り、サササと取り囲んだ。
照れ臭そうにニヤけるのは、ジャージ姿の兄。スーツをキメた弟は、パッと切り替えてキャプテンらしい表情を作った。気恥ずかしさに耐えられなかったのか、弟より少し不器用な兄は、誰にでもなくツッコミを入れた。
「これ、どんな画よ!?」
メモリアルなワンシーンの記念撮影とはいえ、兄・佐藤勇人にとっては最後までベンチを離れられなかった試合の直後である。どこまでも血気盛んだった15年前なら、おどけてカメラの前に立つことなどできなかったかもしれない。しかし翌日に、双子にとって35回目の誕生日を控えた今は、場の空気くらいすんなりと読めるほど、いい大人になった。
撮影が終わり寿人が大勢の記者に囲まれると、輪の外側から勇人が声を掛けた。
「ヒサ! あとで電話するわ!」
寿人は手を挙げて応え、またキャプテンらしい表情に切り替えて記者の質問に答える。
勇人と寿人は双子というより、親友のような。
J2第3節。ともにJリーグの“オリジナル10”であるジェフ千葉対名古屋グランパスの一戦は、久々の双子対決としていつもより多くの記者を集めた。
勇人は、いつか再び寿人と同じピッチに立つ日を切望してきた。もちろん寿人も同じ。何しろ2人は、とてつもなく仲がいい。双子というより、家族というより、あえて表現するなら親友のような……。いや、それよりも特別な存在である気さえするから、互いに「気持ち悪い」と笑うしかない。
しかし残念ながら、2人が同時にピッチに立つことはなかった。ベンチ脇でウォームアップを続けた勇人には最後まで声が掛からず、寿人はたった1度しか見せ場を作れないまま後半早々に交代を命じられた。試合は2-0。千葉の完勝。もう1人の千両役者である名古屋・風間八宏監督は「戦うという技術を履き違えている」という言葉に苛立ちを込めた。