書店員のスポーツ本探訪BACK NUMBER
「真剣勝負のプロレス」の実像。
UWFという“光”を再検証する。
posted2017/03/09 08:00
text by
伊野尾宏之Hiroyuki Inoo
photograph by
Wataru Sato
小学生の頃、僕の周りにはプロレスがあふれていた。
金曜日の夜8時になればテレビ朝日で「ワールドプロレスリング」が始まる。
土曜日の夕方5時半になれば日本テレビで「全日本プロレス中継」が始まる。
曜日は忘れたけど、テレビ東京では「世界のプロレス」という海外プロレスの番組があった。
「週刊少年ジャンプ」を開けば「キン肉マン」が今週も悪魔超人たちと戦っている。
好きにならないはずがない。休み時間に廊下で足4の字固めをかけ、掃除中にウェスタン・ラリアットを放つ。クラス全員とはいかないが、その輪に加わる男子はたくさんいた。
ところが、中学生になると周りから一気に“プロレス”がなくなる。そしてこう言ってくる同級生が現れた。
「おまえ、プロレスなんか見てるの? あんなの八百長なのに?」
UWFは、プロレスファンにとっての光だった。
1980年代から'90年代にかけて、プロレスファンはしばしば「プロレスを否定する人たち」との言論闘争に巻き込まれた。「プロレスは八百長か?」という問いを理論武装で必死に跳ね返しながら、その実「真剣勝負ではないのかも……」と疑心暗鬼になる、そんな葛藤を私も繰り返した。
そんな時代にあった1つの光。それが「UWF」だった。
片方がロープに飛ばすと、飛ばされた方が規則正しく戻ってくる、そんな攻撃はない。“凶器攻撃”も“リングアウト”もない。あるのはキックと関節技、格闘技スタイルのストイックな勝負のみ。
確かにアブドーラ・ザ・ブッチャーがフォークを持ってジャイアント馬場を襲うプロレスは存在する。しかし、一方でUWFのように、ああやって真剣勝負をやってるプロレスもあるじゃないか、と。