書店員のスポーツ本探訪BACK NUMBER
「真剣勝負のプロレス」の実像。
UWFという“光”を再検証する。
text by
伊野尾宏之Hiroyuki Inoo
photograph byWataru Sato
posted2017/03/09 08:00
佐山聡、藤原喜明、前田日明、高田延彦……。UWF旗揚げに関わる男達の生き様を追うノンフィクション。
なぜ「真剣か、八百長か」にこだわったのだろう。
実際のところ、その言説がプロレス否定派の人たちにどれほど効果のあったものなのかはわからない。ただ、当時プロレスをディスる勢力を前にして、我々はいつも「UWFがあるじゃないか」という事実を後ろ盾にした。
遠い日の花火のような話だ。
あれから約30年が経った。
もう、プロレスはテレビでやってない。
いや、正確に言えば土曜日の真夜中に30分だけやっている。けどそれを見るのはもう、「以前からプロレスが好きだった」層であって、「みんな」が見るものではない。
もちろん、今のプロレスも楽しい。むしろ、今の時代のプロレスの方が楽しい部分はいっぱいある。にもかかわらず、当時あそこまで熱を上げて「真剣か、八百長か」にこだわったのは何だったのだろう、と思うことがある。
「真剣勝負のプロレス」とは、なんだったのか。
あの頃僕らが後ろ盾にしていた「UWF」。特に1988年に旗揚げした「新生UWF」人気はすさまじく、試合があるたびに専門誌は速報号を増刊で出して(今考えるとすごいことだ)、テレビのニュース番組やドキュメンタリーでもたびたび取り上げられるくらいだったのに、意外なほどあっさり解散してしまった。
ヒクソン・グレイシーが出て来て、「PRIDE」が始まって、プロレスではなく「総合格闘技」という言葉がすっかり認知された。プロレスと格闘技が明確に分離されていったから、今の時代があるわけだけれど。
あの時、「真剣勝負のプロレス」として世に出回っていたUWFとは、何だったのか――。
そのことに、今まで答えていたのは前田日明だけだった。