オフサイド・トリップBACK NUMBER
リトバルスキーが語る代表と欧州信仰。
「クラブの格より出場機会が絶対大切」
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byTakuya Sugiyama
posted2017/03/04 07:00
代表の2列目争いには世代交代の風が吹き荒れている。香川真司には、長期的な視野を持ってその中心に返り咲いてほしい。
出場機会が得られるなら、J復帰は有効な選択肢だ。
――試合勘が失われることのダメージのほうが大きいと?
「仮に欧州にいても、実戦を経験する時間が減れば、ボールタッチは明らかに悪くなるし、瞬時の判断力、スキルも10%から15%落ちてしまう。
個人的にコーチやトレーナーを雇い、チームの全体練習が終わった後に1人で練習すればいいと思う人もいるかもしれないが、失われた試合勘は到底埋めきれない。サッカーというスポーツはそれほど生易しくないし、はるかに繊細なものなんだ」
――では、具体的にどう対応すればいいのでしょうか?
「香川に関しては、下位のクラブや2部のクラブへの移籍を視野に入れてもいいのではないかと述べたが、同じ理屈で考えれば、選手によってはJリーグに戻ることを検討してもいいと思う。
私は昨年末、日本で天皇杯のガンバ対マリノス戦、アントラーズ対マリノス戦を見たが、試合のレベルは決して低くなかった。今、欧州でプレーしている選手にしても、元はと言えばJリーグでキャリアを積み、海外に挑戦する道を切り拓いてきたはずだ」
――Jリーグの存在意義は、もっと評価されてしかるべきだと。
「現状を打破するためには、有効なオプションになると思う。これは傍観者としての意見ではない。私自身の経験からも断言できる。
私は1990年のワールドカップで優勝した後、怪我をして調子を崩し、思うようなプレーができなくなった。
だから私はブンデスリーガへのこだわりやプライドを捨て、Jリーグで心機一転を図る道を選んだ。今振り返ってみても、それは正しい判断だったと思う。
たしかに当時のJリーグは、今よりもブンデスリーガとレベルの差があったが、私はその分だけのびのびとプレーできたし、サッカーの楽しみをもう一度発見し、復調の糸口をつかむことができた。
サッカー選手が試合勘を取り戻したり、自分のプレースタイルを変えたりする作業は、頭の中だけで考えて理詰めでできるわけではない。
実際にはまず試合に出場し、プレーを楽しみながら、ヒントをつかんでいく形になる。ましてやJリーグのレベルは、私が日本にやってきた頃とは比べ物にならないほど上がっているはずだ。
それを考えても、出場機会を減らしてまで欧州のクラブにこだわるのは合理的ではない。自分本来のプレーを見失ってしまったのでは、日本人選手にとって一番重要な目標、代表に名を連ね、日本サッカーの躍進に貢献するという目的からしても、本末転倒になってしまう」
――現にハリルホジッチ監督は、ワールドカップ予選で香川や本田圭佑を外す選択までしました。
「本田もまたチーム側の信頼を得られていない。結果、出場機会に恵まれず、さらに調子を崩すという悪循環に陥っている」
――10番を背負っているだけに、なおさらチームやサポーター、メディアからの風当たりが強くなっています。
「本田が苦しんでいる背景には、ACミランというクラブ自体が、昔と変わってしまったという要因もある。私は現役の頃から、あのクラブに惹かれてきた。それだけになんとも残念だが、今のミランはかつてのミランとまるで違ってしまっている。率直に言えば、今のミランは決して良いクラブではない。しかし本田は選択を誤り、移籍先に選んでしまった」