オフサイド・トリップBACK NUMBER
リトバルスキーが語る代表と欧州信仰。
「クラブの格より出場機会が絶対大切」
posted2017/03/04 07:00
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
Takuya Sugiyama
ワールドカップ、ロシア大会の最終予選が3月に再び幕を開ける。ここで注目されるのが選手の招集問題、とりわけ「欧州組」の処遇である。近年、欧州組は日本代表の主軸となってきた。しかし香川真司や本田圭佑、岡崎慎司といったクラスの選手でさえ、所属クラブで先発に定着できていないのが実情だ。
はたしてこの現状を、いかに受け止めるべきなのか。欧州で武者修行を続けることは、日本代表を牽引する手段として今も有効なのか。ピエール・リトバルスキー(現ヴォルフスブルク・スカウト部長)に、さらに意見を求めた。
――前回のインタビューでは、香川が現状を打開するためには、思い切って環境を変え、出場機会を得られるようにすべきだという指摘がありました。
しかし香川がドルトムントにこだわってきた背景には、欧州のトップクラブでプレーしているからこそ、自分は選手としてステップアップできるし、代表にも招集されているという認識もあるのではないでしょうか?
「その通り。私は香川の話をした際、日本人選手には2つのオプションがあると指摘した。1つは、名のあるクラブの一員でプレーするのを優先するという選択肢、もう1つはクラブの名前にこだわらずに、とにかく出場機会を優先するという選択肢だ。
私から見れば取るべき選択は明らかだが、日本人選手がなかなか思い切った決断を下せない背景には、代表の問題が絡んでいる。
代表でプレーすることは、日本人選手にとってきわめて重要な目標になっている。ある意味、最大のモチベーションになっていると言ってもいい。
しかも従来は、欧州のトップクラブでプレーしている選手が、代表に優先的に招集されてきた。出場機会に恵まれなくても、今のクラブに名を連ねていたいという気持ちが強くなるのは、このような事情も影響していると思う」
――実際、出場機会が減っても欧州でプレーすることにこだわる選手は、かなりいます。しかし最近では、出場機会に恵まれない選手の方が増えてきている。
「その点で日本人の欧州組は、ブラジルの欧州組などとはかなり違う状況にある。ブラジルの選手の場合は、サントスのようなクラブに戻る道が開けている。欧州で出場機会に恵まれなかったとしても、挫折して帰国したなどとは言われないし、国内のリーグで選手としてのプライドを満たすことができる。
だが日本人選手の場合は違う。日本人のファンの間では、Jリーグは欧州のリーグよりも格下だと思われているため、踏ん切りをつけるのが極めて難しい」
――勇気を持って帰国を決断した清武弘嗣選手などは、珍しいケースです。
「大久保嘉人もそうだ。彼はスペインのマジョルカと、ヴォルフスブルクに在籍したが、ヴォルフスブルクに移籍してきた際には、半年で見切りをつけている。その判断が正しかったことは、Jリーグに戻ってから、さらにストライカーとして成長したことが如実に示している。
だが大久保のように、さっと発想を切り替えるケースは非常に稀だ。
むろん日本人選手が海外で武者修行をし、ステップアップを図ろうとする気持ちはよくわかる。言葉や生活環境がまるで違う世界に飛び込めば、精神的に逞しくなれるのも事実だ。
たとえば宇佐美貴史などは、ブンデスリーガに挑戦するのが2度目となるが、日本には戻らずに、ドイツやヨーロッパでプレーしようと必死に努力し続けている。これも厳しい環境に身を置くことで、人間的にも一回り成長したいという思いがあればこそだろう。彼がどれだけの覚悟で再びドイツにやってきたのかは、私も十分に理解しているつもりだ。
しかし違う見方をすれば、あれほどの才能を秘めた選手が、まともに出場機会を与えられぬまま燻り続けているというのは、実に勿体ないと言わざるを得ない。試合勘を失ってしまうし、貴重な時間を有意義に使えなくなるからだ」