イチ流に触れてBACK NUMBER
イチローも、怪我させた相手も笑う。
日本ではやれない、キツいジョーク。
posted2017/03/01 11:40
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Kyodo News
春の珍事は突然に起きた。
2月21日。スタントン、イエリチ、オズナのレギュラー外野陣らとともに「I got it!(俺が捕る)」の声をかけ、飛球を処理する基本練習でのことだった。
イチローと招待選手のブランドン・バーンズ外野手(30)が正面からまともに激突した。
イチローは右膝上部を強打し、衝突の衝撃で腰にもダメージを受けた。過去、16年間のメジャー生活でイチローが外野守備で怪我に繋がるような接触事故を起こしたことは皆無であり、ましてやその場を退くような事態になることは一度もなかった。
常にあらゆる局面を想定し、リスク回避の中から生み出されるスーパープレーがイチローの凄みだが、それでも今回の不測の事態は起きた。
それには理由があった。
あまりにも低次元の出来事に、苦笑のイチロー。
そもそも、中堅イチローが最初に「I got it」の声をかけた時点で右翼バーンズは処理を任せるのが基本だ。
ましてや、その基本を徹底させるための反復練習であり、“練習のための練習”のレベル。公式戦ならば、声を掛けながらも、必ず相手の動きを確認することを忘れないイチローだが、基本事項を徹底させる反復練習では危険回避能力のセンサーを稼働させる必要もない。
かくして不慮の事故は起きた訳だが、あまりにも低次元での出来事にイチローは苦笑するしかなかった。
「大丈夫じゃないっしょ! 声を出すも何も……。その前に散々、センターが声を出したら(両翼の野手は退く)って話であれやって、びっくりするわ、もう。まぁ、彼を責めたら可哀想だけど」