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武豊の“魔性”を味わった福永祐一。
「気づけばライバルの牙を……」
posted2017/02/12 08:00
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph by
Kyodo News
隣家に住む8学年上の武豊に憧れてジョッキーをめざした福永祐一。それまで無関心だった競馬に、突如として興味を示したのは中学2年生の時だった。
「僕はずっとサッカーをやっていたし、周りに競馬の話をする人もいませんでした。その僕が突然、騎手になるって言い出したのは豊さんの影響です。テレビや新聞に出ていて、ポルシェに乗っていて、アイドルと結婚している。単純な中学生だったんで、純粋に憧れました。
豊さんが変えた後の競馬界でなければ、僕は入っていなかったでしょう。騎手はギャンブルの駒でもあり、アスリートでもあるけれど、後者の面を大きく発信できたのが豊さんです。ジョッキーの持つ格好良さに強いこだわりもある。だからこそ競馬のイメージも変えられたし、お客さんも変わったんだと思います。そういう意味で、福永祐一のルーツは福永洋一なんですけど、ジョッキー福永祐一のルーツは武豊です。
「年間勝利数2位は、実質1位みたいなもんだ」
豊さんの本当の凄さがわかったのは、騎手になった後、それもずいぶん経ってからですね。なにが凄かったって、ライバルの牙を抜いていったのが凄い。しかも、みんな気づかないうちに抜かれていたのが。
当時、年間勝利数2位の騎手が『2位ってことは実質1位みたいなもんだ』って言い切っていたんです。これはまさに牙を抜かれていた証拠でしょう。その騎手だって、僕から見たら素晴らしい技術の持ち主だったけど、そんな騎手にも白旗を上げさせていたというのが恐ろしい。どうやって牙を抜いたかはわからない。ただ、そうなってしまえば、豊さんが年間200勝するのもわかります。今となっては、ですけど。
かく言う僕も、牙を抜かれていました。33歳の時にようやく、そのことに気がついた。コーチを付けて騎乗フォームを変えていったのもそれからですね」