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武豊の“魔性”を味わった福永祐一。
「気づけばライバルの牙を……」
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph byKyodo News
posted2017/02/12 08:00
怪我などに泣かされたことも多い福永だが……今シーズンこそ悲願のダービー制覇を狙う!
「なんで僕の馬まで取るんですか」と言ったら……。
デビュー以来、後輩として公私で可愛がられてきた福永だが、騎乗について言葉で教わったことは一度もないと言う。
「自分が乗っていた馬を、その時のトップジョッキーに“取られる”というのは、みんなにある経験だと思います。自分もお手馬が豊さんに乗り替わられて、一度言ったことがあるんですよ。『なんで僕の馬まで取るんですか。そんなことしなくたって、いい馬にいっぱい乗ってるじゃないですか』って。しかも風呂場で(笑)。すると『だったらお前が乗ればいい』と。僕はもうなにも言えなくなりました。
要は乗せる側が誰に乗ってほしいと思うかですから。つまり、選ばれる騎手になれっていうことなんです。本人は覚えてないでしょうけど、ハッとしました。今思えば、馬を“取られた”と思うこと自体が間違ってるんですけど、若い時はそう思うんですよ。
「お前より先に辞めることは絶対ない」
『豊さんが乗っていた馬に乗れば自分も同じぐらい勝てる』という声を聞くこともありますが、それはあり得ない発想です。騎乗技術の差というのは、見ている方が思っている以上にあるんです。いいジョッキーだから、いい馬に乗ることができる。競馬とはそういう競技なんです。
あの言葉は、そこで腐るか、頑張れるかの分岐点になったし、色んな依頼を受ける騎手になろうと思うきっかけになりました。
豊さんは47歳の今も、技術やメンタルを向上させようという気持ちが全く衰えません。もちろん、僕自身もその気持ちは持っていますが、今の豊さんの年齢になる8年後は? と考えると凄いことです。僕はデビューした時から『お前より先に辞めることは絶対ない』と言われてましたけど、僕もそう思います(笑)。本当に60歳まで、いやそれ以上続けるんじゃないかな」
(構成:生島洋介)
(Number913号「ジョッキーが語る『鞍上・武豊』 福永祐一「豊さんはライバルの牙を抜いていった」より」)