One story of the fieldBACK NUMBER
MVP新井貴浩を支えた黒田の言葉。
「ボロボロになるまでやれ」の背景。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKiichi Matsumoto
posted2016/12/05 07:00
リーグ制覇時は涙を流し抱き合い、黒田の200勝達成では新井がプレゼンターを務めた。2人の関係性は2016年のプロ野球を語る上で永遠のテーマである。
新井が新井でいる限り、チームにもたらすものがある。
そんなある日の練習中、小玉は新井が真っ赤な顔をしていることに気がついた。
「お前、えらい顔赤いのお」
すると、新井は他の誰にも聞かれないように、副主将だった小玉に耳打ちした。
「もし俺が倒れたら、あとはお前、頼むな」
実は40度の熱があり、翌日、医者にインフルエンザと診断された。小玉はさすがに怒ったという。
「アホ! お前、うつったらどうするんじゃ!」
新井は高校時代、打てないこともあったという。ただ、いつも4番だった。なぜか。
「あいつは天才じゃないし、打てないことの方が多かった。でも、あいつが打てないなら、誰もが納得できる。それに、ここ一番では必ずやってくれましたから」
打っても打てなくても、出ても出なくても、新井が新井でいる限り、チームにもたらすものがある。黒田が放った言葉には、そんな意味も込められているのだろう。驕りとは無縁のリーグMVPはすでに来季へ向けて動き始めている。カープにとって黒田のいないシーズンになる。そして、新井にとっては、盟友との約束を果たす戦いの始まりだ。