濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
文化系プロレスは100年後も生き残る!
映画に込めたDDTの“瞬間最大風速”。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by(c)2016 DDT PRO-WRESTLING
posted2016/11/23 08:00
11月26日(土)より、新宿バルト9 ほか全国順次ロードショー!
マッスル坂井は24時間プロレスを考えている。
王道、直球のフォーマットに則ったこの映画だが“凡庸”にはなっていない。それは、松江の言葉を借りるなら「DDTがやってること自体が変」だからだ。身体を鍛えたり技を磨いたりするのは他の選手に任せて、というより積極的に「トレーニングを“抜いて”」、坂井はプロデュースに専念する。文化系には文化系の闘い方というものがあるのだ。そして興行のラストに“文化系プロレス”は棚橋さえも巻き込んで凄まじい興奮と笑いと感動と、もう何か人間の感情が全面解放されたとしか言いようがない、とてつもない反応をもたらすことになる。
さすが天才・マッスル坂井。興行を見たとき、筆者はそう思った。作品の中でも、坂井は天才と呼ばれる。しかし彼は、ふとこんなことを言うのだ。
「気ぃ狂うでしょ。こんなイメージの洪水に襲われてたら」
彼は数年前、実家の金型工場を継ぐために引退し、故郷の新潟に帰った。妻も子もいる。静かな暮らしが待っているはずだった。なのになぜか、新潟でも興行のアイディアを練っている。生協から食材が届いたのを受け取ったり、食器を洗ったりしながら、考えすぎて気が狂いそうになっている。
いつまでも“終わらない青春”を続ける胆力。
それでも彼は「いとも簡単に人生をねじ曲げる」プロレスから離れられない。高木もディーノも大家も離れられない。HARASHIMAは彼らを見て、プロレスラーである限り大人にならなくてもいいんだと気づいたはずだ。
文化系。そう言われると楽しそうだ。体育会系より楽かもしれないと思ったりもする。しかし頭脳労働にだって重労働はある。ヘトヘトにもなる。相当な胆力がなければやっていけない。高木は選手たちに、こんなことを言う。
「プライド持って(DDTのプロレスを)やっていこう」
「お前らも腹くくれよ」
プロレスは「ゴールのないマラソン」と言われる。文化系プロレスであるDDTの場合は「終わらない文化祭」か。若者にはいいかもしれないが、大人にはきつい。文化祭が終わらないということは、青春が終わらないということだ。「あのときは楽しかったなぁ」としみじみ振り返る時間も余裕もないということだ。常に、次の楽しさを作り出すためにすべての能力を振り絞らなくてはならない。松江はスポーツ映画のエモーションを借りて、DDTの、文化系の“芯”を捉えた。