松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹に今年1度だけ訪れた好感触。
ステップアップの小さな種を拾って。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2016/09/28 07:00
ラフからのショットが増えたツアー選手権最終日の松山英樹。その危うさと、5位にまとめる底力が今の彼には同居している。
「打つまで左右どっちに出るかわからな」かった松山。
けれど、この週の松山はドライバーショットが左右どちらにも曲がり、「いいのか悪いのか、わからない」。フェアウェイからのアイアンショットでさえ「打ってみるまで、左右どっちに出るのか、わからない。半信半疑」という状態。
フェアウェイをキープしようにも、ラフを徹底回避しようにも、それがままならない状態。松山と他の上位選手たちとの間には、そこですでに大きな差が生じていた。
それでも松山が5位に踏みとどまれたのは、小技とパットで執拗にパーを拾っていったからに他ならない。ショットの不調をショートゲームで補うことは「4日間、よく続いてくれたと思う」。
だが、拾うゴルフで勝つのは難しい。もちろん拾うゴルフで結果的に勝つことはあるけれど、拾うゴルフで勝ちに行くのは難しい。
大会で5位になっても、フェデックスカップで自己最高位の13位になっても、戦いたいように戦えなかったという悔しさとやるせなさが、胸の中に膨らんで残る。
「これを毎週、続けるのはしんどい。拾っていくゴルフもありかなと思うけど、それじゃスコアを伸ばしていけない。やっぱりショットをしっかり立て直したい」
松山の最終戦は不完全燃焼の想いの中で幕を閉じた。
たった1試合でも、いい感覚があったことの意味。
今季は2月のフェニックスオープンで米ツアー2勝目を挙げた。だが、その勝利でさえ、ショットの好感触を得ずして勝ったゆえに「勝ったのはたまたまですし」と横へ置き、今年がいい1年だったという実感は「ないですね」と、あっさり言い切る。
ストイック? そうかもしれない。自分に厳しすぎる? そうかもしれない。
だが、いいショットが打てたと感じられたときが「あった」こと、存在したことは確かな事実だ。バルタスロールで意気揚々と戦い、明るい笑顔で72ホール目のグリーンに上ってきたあの全米プロが「あった」と「無かった」では、天と地ほどの違いがある。
いいショットが打てたと実感できた大会は「今年1回しかない」と松山は言ったけれど、「1回もなかった」ではなく「1回はあった」と受け取れば、その1回を今後へ、来季へ、広げていけるのではないか。