松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹に今年1度だけ訪れた好感触。
ステップアップの小さな種を拾って。
posted2016/09/28 07:00
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Sonoko Funakoshi
「いいショットが打てたなあって、最後に感じられたのは、いつですか?」
米ツアーのプレーオフ最終戦、ツアー選手権を終えた松山英樹に、そう尋ねてみた。
「それは今年1回しかない。全米プロだけ。その前はいつだか、わからないです」
そう、あの全米プロは松山のゴルフに「らしさ」が戻った大会だった。それまでは練習場とコースですっかり変わってしまう自分のゴルフと自信、そのギャップに苦しみ、予選さえ通らない状態に陥っていた。
だが、あのバルタスロールでショットに好感触が戻ったと感じられたことで、それまでの負の連鎖が正の連鎖へ変わり、好打が自信へ、自信がさらなる好打へ、好スコアへ。
そうやって松山はリーダーボードを駆け上っていった。
「伸ばすためのパットが入らないと勝負にはならない」
ショットは良くても決めどころのパットを沈められず、優勝には手が届かず4位に甘んじた。とはいえ、あのときの松山の表情に溢れていたのは、勝てなかった悔しさより、自分が求めるショットを取り戻せたという喜びと安堵。
スコアや順位より、達成感と満足感。その姿勢を彼はいつなんどきも崩すことはない。
そして、勝負どころの決め手になるのはパットであっても、自分自身のゴルフの軸となり土台となるものは、あくまでもショット。その考え方と優先順位も今の松山の中では不変で普遍なのだと思う。
根幹をなすものは、パットよりショット。だからこそ、思うようなショットが打てなかった今季のプレーオフ4戦で松山は苦しそうな顔をし続けていた。
マキロイとチャペルはラフを徹底警戒していた。
最終戦のツアー選手権の舞台となったイーストレイクは、全米オープンのコースのように深いラフが手招きしてくる視覚的な脅威こそないが、米南部特有の粘りの強いバミューダ芝のラフは見た目以上に難敵だった。
さほど深く見えなくても、ボールがすっぽり隠れてしまうほど実は深く、さほど食われないように見えても振り抜きざまのフェースやヘッドにいろんな悪戯を仕掛けてくる。
「フェアウェイキープはマストだ」とは、優勝したローリー・マキロイの言。
「必要なのはフェアウェイキープとネバーギブアップだ」とは、マキロイとサドンデス・プレーオフを戦い、2位になったケビン・チャペルの言。
そんなふうにショットの好調さを自負していた選手たちが、イーストレイクのバミューダラフは「ボールがどんなリアクションをするか、わからない」と警戒し、徹底回避を心がけていた。