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42歳になって最速タイムを大幅更新。
不可能を可能にするイチローの俊足。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byAFLO
posted2016/09/18 07:00
現地時間11日のドジャース戦ではイチローの安打を契機に前田健太を攻略。背番号51が先制のホームを踏んだ。
「一般的な年齢の括りで評価されるのは残念」
イチローがオリックス時代から取り組む初動負荷理論のトレーニングや昨季から導入したビモロスパイクの存在が大きいことは本人も認めるところだ。継続するだけでなく、常に先を見据えたトレーニングを怠らないところがイチローたる所以と感じるが、彼は日米通算4000安打を達成した2013年8月21日にこんな言葉を残している。当時は39歳と10カ月だった。
「年齢に対する僕以外の人の捉え方で煩わしいことがいっぱいある。これは35歳を過ぎてから生まれてきたが、そういうことと戦うことはとてもストレスになる。時間という概念は人間が作ったものだと思うけれど、もし、それがなかったら、僕は一体いくつに見えるのか。いろんなことが前に進んで行く(時代の)中で、僕が使っている野球の道具は最高のものであり、僕がしている(初動負荷理論)トレーニングも、人によって違う部分はあると思いますけれど、何十年も前の人と比べたら考えられないようなトレーニングなんですよ。それを続けている僕がその(一般的な年齢の)括りで評価されるのは残念ですよね。これは先輩たちがなかなかやってきてくれなかったので、そういうきっかけを作るのは僕たちの使命だと思う」
常識と戦い続けるイチローに不可能はない。
一般にある概念を覆そうと戦うイチローは本気だ。彼は常日頃、50歳までの現役を誓うが、果たして今、何人の人が可能と感じているだろうか。かく言う筆者も正直半信半疑だが、ピート・ローズ越えの4257安打を放った際のイチローの言葉から考えれば、不可能ではないと感じる人も多いだろう。
「僕は子供の頃から人に笑われてきたことを常に達成してきているという自負がある。小学校の頃に毎日野球を練習していて近所の人から『あいつプロ野球選手にでもなるのか』と笑われ、アメリカに行くときも『首位打者になってみたい』と言い、そんなときも笑われたが、2回達成した。常に人に笑われてきた悔しい歴史が僕の中にはある。これからもそれをクリアしていきたい」
不可能と思われることを可能に変えてしまう野球選手、それがイチローと感じる今日この頃。そして、そのイチローに聞いてみた。
「不可能を可能にする人。誰か連想する人はいるのですか?」
イチローはしばらく真顔で考え込んでから、こう答えた。
「小池(百合子・東京都知事)さんには、それを期待したいと思っています」
イチローらしいセンスだった。