リオ五輪PRESSBACK NUMBER
五輪本番でも荒れるドーピング問題。
金藤理絵が滲ませた“地道”の誇り。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJMPA
posted2016/08/14 15:00
女子200m平泳ぎの表彰台にて。左から銀のエフィモワ、金の金藤、銅のシ・セイリン(中国)。「私たちは自分を誇りに思っていい。競技での自信を失わないでいい」とエフィモワ選手への意見を述べた金藤。
エフィモワが2つの銀メダルを獲得し、問題が拡大。
問題が拡大したのは、エフィモワが平泳ぎ100m、200mでともに銀メダルを獲得したことがきっかけだった。エフィモワの出場が認められた直後からアメリカチームは抗議しており、その影響か、100m決勝のスタート時には、観客席からエフィモワに向けてブーイングが起こった。レース後のプレスカンファレンスでも、金メダルのリリー・キングがエフィモワへの批判についてを、「私はみんなが思っていることを話しただけです」とあらためて持ち出し、エフィモワ本人にはドーピングをめぐる質問が集中したのだ。
金藤が金メダルを獲得した200mの決勝後も、会見の話題ははドーピング一色だった。
ドーピングの話題が上がるたびに、エフィモワはうんざりしたように「また同じ質問をするんですね」と何度も繰り返した。
金藤にも、エフィモワについての質問がなされた。
「出場するとなったときは、こんなタイミングになっても変更があるんだという驚きはありました」
強敵となりうる選手が、一転して出場することになり動揺があっても無理はない。だが、金藤はこう続けた。
「でも、私がやることは何一つ変わらないと思ってこの日を迎えました。もしここで負けていたら、『エフィモワ選手がいなかったら勝てたのに』と言われたと思います。そうならなくてよかった」
金藤が歩んだ道には、何の魔法も特効薬もない。
金藤は、他の選手も認めるハードな練習を積んできた。その地道な積み重ねの果てに、世界一に上りつめた。
そこには、何の魔法も特効薬もない。身体を地道に鍛え上げる日々だけが、彼女を強くした。毅然とした金藤の表情と口ぶりには、その誇りがにじんでいた。
金藤に限らず、萩野公介も、瀬戸大也も、坂井聖人も、もちろんその他の選手たちも、それぞれにトレーニングと創意工夫を重ねてつかんだメダルだ。ドーピング問題に揺れたリオ五輪の競泳競技を振り返るとき、あらためてその価値が浮き彫りになる。