リオ五輪PRESSBACK NUMBER
中村美里がついに微笑んだ日――。
金以上の価値ある、復活の銅メダル。
posted2016/08/08 12:30
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
JMPA
「悔しいです」
8月7日、試合を終えた柔道52kg級の中村美里は言った。金メダルだけを目指してきた3度目のオリンピックで、銅メダルに終わった。
だがその表情には、悔しさとは異なる思いも、浮かんでいた。
組み合わせが決まったときから、山場は準決勝で当たるであろうマイリンダ・ケルメンディ(コソボ)であることは分かっていた。
中村が手術、リハビリで出場しなかった2013、2014年の世界選手権女王である。
2015年の世界選手権で中村が優勝したときは、ケルメンディが怪我で出ていなかった。この大会のみならず、過去、一度も対戦したことのない相手だ。
力で抑えられ……最後は逃げ切られた。
世界屈指の技巧派として細かな技術を磨いてきた中村、世界でもトップと言っていい圧倒的なパワーを誇るケルメンディと、スタイルも真逆である。
初戦となった2回戦、準々決勝と勝ちあがると、待ち受けていたのは、大方の予想通りケルメンディだった。
試合が始まる。開始早々、相手に頭を下げさせられ、消極的と指導を受ける。
「力が強いのは分かっていました。思ったより強かったと言えば強かった。力が強くてああいう組み手になったのが反省点です」
中村は振り返る。
日本女子代表の南條充寿監督は言う。
「奥襟をとって、ペナルティを狙ってくるということは予測していました」
予測していてもはまってしまったのは、対戦していないことから来る未知の部分があったからにほかならない。
ただし、対応できなかったのはその時までだった。以降は徐々に自分のペースに引き戻し、ケルメンディを封じる。残り時間が数十秒となると、逃げ切ろうという姿勢がうかがえたケルメンディに場内からブーイングが飛ぶ。指導があるかと思われたが……試合はそのまま終わった。