炎の一筆入魂BACK NUMBER
急失速を知る緒方監督と新井の思い。
「一戦必勝」「凡事徹底」を貫く広島。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/07/22 11:00
緒方監督は試合中だけでなく、練習のワンプレーにもきっちりと目を光らせている。
つまらないミスをすれば、勝てる試合も勝てない。
1つのミスが勝敗を分ける。混戦となると、その色はより濃くなる。緒方監督はシーズン前からセ・リーグは昨季同様、混戦になると予想していた。昨季広島が苦しんだ理由は、シーズン序盤の出遅れがあった。守備のほころび、小さなミスから試合を落とした。最終戦でBクラスが決まった結末は、その後のつけを払わされたようなものだった。
昨季と同じ轍は踏まない。「つまらないミスをすれば、勝てる試合も勝てない。勝てている試合でもミスはある。そこをいかになくしていくか。そこしか言っていない」と緒方監督。開幕から唱え続ける「投手を中心とした守り勝つ野球をやる」は、当たり前のことを徹底的に行う「凡事徹底」を暗示させていたのかもしれない。
実際に相手のミスから白星を得た試合はあった。1つや2つではない。それは運だけではなく、広島ナインの「凡事徹底」が白星を引き寄せたと言える。
新井も「一戦一戦必死になって勝ちに行く」。
指揮官の方針を選手の兄貴分である新井貴浩も実践していることで、ナインにより深く浸透していった。「星勘定をしてしまいがちだけど、そんなことをやってもいいことはない。今までとやることは同じ。一戦一戦必死になって勝ちに行く」。新井の言葉は、緒方監督の「ゲーム差や貯金には、気持ちを向けないようにしている。一戦一戦戦っていく」との思いと重なる。
新井は阪神時代の'08年に、最大13ゲーム差を離して一時はマジックを点灯させながらも、巨人に逆転優勝を許した「メークレジェンド」を味わっている。
2人のペースメーカーの存在が、独走状態にも動じない地に足をつけた精神状態をもたらしている。
また、選手個々には、ほどよい危機感がある。全試合出場は田中広輔と丸佳浩の2選手のみ。選手が多少入れ替わっても勝てるチーム状況は自然とチーム内に競争意識を与える。