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ドーピング、国際陸連はお咎めなし。
暴走ロシアを放置、隠蔽した責任は?
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAFLO
posted2016/07/07 17:00
ロシアの、いや世界陸上界のスター、エレーナ・イシンバエワ。彼女が提訴したスポーツ仲裁裁判所の判断やいかに。
ロシアは連帯責任、では国際陸連の責任は?
イシンバエワの言い分は一理あるものの、これまで長年にわたって隠蔽、また買収を行ってきた背景や正しくドーピング検査が行われていない現状、これまで組織的なドーピングでメダルを量産し、その恩恵を得た選手たちがいることを考えるとなかなか共感しづらい部分もある。
また、イシンバエワも上記の救済措置に申請しているが、2011年以降は故郷ボルゴグラードで練習をしているため、国際陸連の定める例外に当てはまらない。彼女にとって、出場資格獲得の道のりは世界記録よりもはるかに険しい。
今回の国際陸連の決定を「英断」、「当然の決定」と評価する人もいる。特にロシア人選手のせいでメダルを逃した選手たちの怒りは大きい。
しかし考えてみると、国際陸連は自分たちの非をロシア一国になすりつけて、スケープゴートにした感もある。ロシアを資格停止処分にすることで、国際陸連の元会長やその息子、一部の幹部による賄賂問題や隠蔽工作を相殺しようとしているようにも見えるのだ。
現在のセバスチャン・コー会長は前職では副会長であり、当時の会長やその側近の動きを不審に思わなかったのか、そしてなぜ内部調査を行わないのか、ロシアチームには連帯責任を要求しているのに国際陸連の上層部はおとがめなしなのはなぜか――。疑問だけが残る。
ロシアの問題は2011年から認知されていたが……。
国際陸連は、2011年からロシアのドーピング問題を認知していたというが、それに対して抜本的な対策を講じてこなかっただけではなく、意識的に見逃していた。
その結果、ロンドン五輪ではロシアの中距離女子選手がメダルを量産し、その後にドーピングが発覚して剥奪されている。2013年のモスクワ世界選手権でも無名のロシア選手たちが活躍して17個のメダルを獲得している。敗れた他国の選手が悔しそうな表情でうつむいていたことを記憶している人は多いのではないだろうか。
昨年の北京で行われた世界選手権前にも、ドーピング問題が再燃した。2005年、2007年の世界選手権メダリストの検体を再検査したところ、28選手からのべ32件の陽性がみつかった。そのうち6選手は現役だったが、国際陸連は彼らの名前も、彼らが北京大会に出場したかどうかも明らかにしていない。ちなみに2005年ヘルシンキ大会、2007年大阪大会でメダル獲得した日本人3選手はクリーンという結果も出ていたが、それも発表されなかった。
大会前にドーピング問題で騒がれたくない、という意識が働いたのは明白だ。ドーピングを行う選手や組織だけではなく、隠蔽に加担し続けた国際陸連の責任は大きい。