プロレスのじかんBACK NUMBER
ノアファンが否定し続ける潮崎豪。
そんな男が握る、沈みゆく団体の命運。
text by
井上崇宏Takahiro Inoue
photograph byEssei Hara
posted2016/05/26 17:30
5月28日のGHC戦では、ノアに復帰してからの潮崎の、本当の意味での団体への忠誠心が試される。
「鈴木みのるは見てくれも凄いからなあ」
そもそも、抗争スタート時から鈴木軍とノア勢の両者間にはある問題があった。
それは“奪う側”である鈴木みのるのほうこそが有能なアジテーター(扇動者)であり、その過激な実力行動でその時々の空間を支配することに長けている男だったことだ。
アジテーターとして際立つ雄弁さと、醸し出す独特の雰囲気はプロレス界屈指と言っていい。はっきり言ってノアの選手とは役者が違ったのだ。そのことが明確に証明されたのだから、ファンは大手を振って団結などできるわけがない。鈴木軍登場により、ノアは本当の意味で団体存亡の危機に立たされてしまったような気がする。
かつて三沢光晴らと共に“四天王”と称され、現在はノアの社長である田上明は、2015年の“抗争・第1章”をこんなふうに振り返っている。
「やっぱり鈴木軍というのは、これまでノアにはいないタイプの選手、軍団だったから、それでうちの選手たちが面食らったという部分もあっただろうし、闘い方も全然違うからね。鈴木みのるは見てくれも凄いからなあ。怖い顔してんだよ(苦笑)。うちの選手は能力的には劣ってないんだけど、精神的に錯乱されてたというか、してやられることが多かったと思うよ。(中略)まあ、2015年っていうのはうちのファンにもずいぶん苦しい思いをさせちゃったなというのはありますよ。飲みに行くと、店のねえちゃんに『鈴木軍、なんとかしてよ!?』と言われることもあったしね(苦笑)」
「苦境に立たされてもノアを守る」と言ったが……。
リング上に熱狂を宿らせるために必要なある種の特殊能力、それが現在のノアという団体には欠けている。
たとえば潮崎豪。
「いろんな意見があると思います。ただ、俺はこの緑のリングで試合がしたい。ノアのリングで試合を組んでください。苦境に立たされているノアを守りたい」
ベビーフェイスはベビーフェイスらしく、ノアマット復帰時にそんな愚直な表明をしてはみたが、そもそもノアが苦境に立たされたのは、自身が全日本プロレスに移籍をしたことが一因でもあるのだから、ノアファンの多くはこの出戻り劇に反発をした。
結果的に約半年が経った今も「苦境に立たされているノアを守る」ことが実行されていないから、ブーイングが鳴り止むことは、ない。