プロレスのじかんBACK NUMBER
ノアファンが否定し続ける潮崎豪。
そんな男が握る、沈みゆく団体の命運。
posted2016/05/26 17:30
text by
井上崇宏Takahiro Inoue
photograph by
Essei Hara
共通の敵を作り、大衆を団結させよ。
そして大衆を熱狂させたまま置け。考える間を与えるな。
かの独裁者、アドルフ・ヒトラーによる大衆扇動術の一端である。
それまで新日本プロレスを主戦場としていた鈴木みのる率いる鈴木軍が、プロレスリング・ノアの最大の敵として姿を現したのは2015年初頭のこと。メンバー全員がまとめて他団体のリングに闘いの場を移すという前代未聞の行動は、当時、プロレス界の話題をさらった。
この鈴木軍の行動は、経営危機が囁かれていたノアにとっては実は渡りに船だったはずだ。なぜなら、開戦まもなく鈴木軍に全タイトルを一気に奪われもしたことで団体存亡の危機を煽り、その闘争はやがて熱狂へと昇華するに違いなかったからだ。
つまり共通の敵を得たことで、熱狂的なノアファンたちと団結をするのだ。
実際にベルト奪還に燃えるノア勢と、それをありとあらゆる手段で弾きかえす鈴木軍の抗争は、ノアマットに多くの刺激と話題をもたらした。そして、その抗争はスタートから1年が経とうとしていた12月23日の『DESTINY2015』で、ノアのエース・丸藤正道が鈴木みのるを破り、9カ月ぶりに至宝であるGHCヘビー級王座を奪還したことで、ハッピーエンドで終結することとなる……はずだったのだが、試合後、丸藤の盟友である杉浦貴が突如丸藤を襲撃すると、そのまま鈴木と握手を交わして鈴木軍入りを表明。さらに2012年にノアを離脱し、全日本プロレスに移籍した潮崎豪と金丸義信のUターン参戦もあり、ノアvs.鈴木軍の抗争は新章へと突入したのである。
ノアについに訪れた、ホンモノの危機。
そして2016年。
いま、ノアマットに大きな“誤算”が生じている。
ノアファンたちが、共通の敵であるはずの鈴木軍を前にノアと団結することなく、リング上の闘いから熱狂感が薄れつつあるのだ。
当然、観客動員は依然苦戦を強いられ続けている。