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武豊、実はJRA・GI初の逃げ切り勝利。
キタサンブラックと手にした春天の盾。
posted2016/05/02 11:20
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph by
NIKKAN SPORTS
5月1日に行われた第153回天皇賞・春(京都芝外回り3200m、4歳以上GI)を制したのは、武豊が騎乗した2番人気のキタサンブラック(牡4歳、父ブラックタイド、栗東・清水久詞厩舎)だった。レース後、昨年の菊花賞と同じように、北島三郎オーナー(名義は大野商事)が歌う「まつり」が、淀のスタンドに響いた。
武に操られたキタサンブラックは、1000m通過1分1秒8という、速すぎて先行馬に不利になることもなく、遅すぎて苦手の瞬発力勝負になることもない絶妙のペースで逃げた。
「一気に伸びるタイプではないので早めに動いて行きました」と武が言ったように、4コーナーを回りながらスパートをかけ、後ろを突き放しにかかった。
そのまま逃げ込みをはかるも、ラスト200mを過ぎたところで、外から昨年の3着馬カレンミロティックが並びかけてきた。壮絶な叩き合いとなり、一度はカレンに頭か首ほど前に出られた。しかしキタサンブラックは驚異的な二の脚を使い、ラスト10完歩ほどのところから盛り返し、ゴールに飛び込む最後の1完歩で4cmだけ前に出ていた。
勝ちタイムは3分15秒3。1000m地点から2000m地点までの1000mは1分1秒7。最初の1000m通過とコンマ1秒しか違わない、芸術的なイーブンペースだった。
「逃げることを決めたのは、ゲートを出てから」と言う武は、精密機械のように正確な体内時計でキタサンが最大限の力を発揮できるお膳立てをした。キタサンは、ゴール前で差し返す勝負根性でそれに応えた。
以前、武がテレビのドキュメント番組で口にした、人馬一体ならぬ「人馬二体」でそれぞれの役割を果たし、手にした栄冠と言えるのではないか。
武豊にとって、JRAのGIで逃げ切り勝ちは初めて。
2006年のディープインパクト以来、10年ぶりに天皇賞・春を勝った武にとって、これが自身の最多勝記録を更新する春天7勝目。同一GI7勝というのは、保田隆芳元騎手の秋天7勝に並ぶ最多タイ記録だ。春秋合わせると、'08年にウオッカで秋天を勝って以来の12勝目。「平成の盾男」の勢いは、とどまるところを知らない。
武は、「砂のサイレンススズカ」と呼ばれたスマートファルコンでいくつもの交流GIを逃げ切り、昨年の香港カップをエイシンヒカリで逃げ切っているが、前人未到の70勝目となったJRA・GIでの逃げ切ち勝ちは、これが初めてであった。