One story of the fieldBACK NUMBER
上司の器量は失敗したときに分かる。
金本監督にめぐり合った高山俊の幸運。
posted2016/04/20 07:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Nanae Suzuki
4月、新たなスタートの季節。組織に入った人は、どんなボスに巡り合っただろうか。
失敗してもいい。思い切ってやってみろ!
こう言って背中を押してくれる上司がいるかもしれない。ただ、幸運だと思うのは少し早い。それがわかるのは実際に、ミスをしてしまった後なわけで……。
この春、本当の意味で幸運な出会いをしたフレッシャーがいる。阪神タイガースの高山俊だ。東京六大学で最多安打記録を塗り替えて、ドラフト1位で入団したエリート。ボスが誰であろうと関係ないではないか。そう思う人がいるかもしれないが、野球界だって誰と巡り合うかは人生を大きく左右する。
そんな高山の「幸運」を肌で感じ取った男がいる。DeNAベイスターズ久保康友だ。
4月2日、横浜スタジアム。初めて高山と対した。3回の2打席目、完全にタイミングを外したと思った投球に対して、バットを合わされて、右翼への二塁打とされた。
「バットコントロールがいい。正直、びっくりしました。僕のボールでは空振りは取れないかなと思いました。だから、早いカウントで打たせた方がいいとか、次へ向けて色々、考えますよね」
「金本監督は後出しジャンケンはしない人」
敵のみならず、味方までをも洞察することを「趣味」とする。投手として歓迎すべき“観察癖”を持つ久保は、打者・高山を、こう感じ取った。ただ、それ以上に感性のアンテナに触れたものがあるという。それは、ベンチから高山の背中を押しているボスの存在だ。
「高山はいい打者ですよ。ただ、対戦して、それ以上に感じたのは金本さんが『とにかく振ってこい』と言っているんだろうな、ということ。あのヒットは体勢を崩しているんですけど、それを気にせずに振り切ってきた。横田も含めて、あの1、2番のスイングはベンチが後押ししてあげないとできない」
超変革を掲げた金本阪神は高山、横田というフレッシュな1、2番がけん引役となって好スタートを切ったが、久保はその理由を肌で感じ取っていた。
「よく真っ直ぐ1本で振ってこいって言う監督はいると思います。ただ、本当にそれで凡退したら、ああだこうだ言われることもある。後出しジャンケンをされれば、選手はわかりますし、ついていかなくなる。金本さんは後出しジャンケンはしない人。失敗してもいいと思える人。だから、覚悟を持ってできるんでしょうね」