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上司の器量は失敗したときに分かる。
金本監督にめぐり合った高山俊の幸運。 

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byNanae Suzuki

posted2016/04/20 07:00

上司の器量は失敗したときに分かる。金本監督にめぐり合った高山俊の幸運。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

褒めるときは褒める、叱るときは叱る……ベテランも若手も分け隔てなくフェアに、そして熱く接している金本監督の姿に、選手もファンも熱狂している。

対戦相手にも伝わる、金本阪神の“超変革”。

 失敗してもいいんだ!

 そう言われたって、部下は半信半疑なものだ。実際、失敗した途端に梯子を外されることもある。そうなれば、チーム内にミスを恐れる空気が生まれ、笛吹けども踊らない組織になっていく。

 ただ、今の阪神は違う。相手から見れば、選手が結果に怯えることなく、向かってくる。それを可能にしているのが、金本知憲監督というボスの器──。2009年から5年間、阪神のユニホームを着て、金本監督の人間性を知る久保は今年のタイガースの強さを、こう感じ取った。猛虎が発散する改革の空気は対戦相手にも伝わっているのだ。

「若いやつ」のために汗をかくボスの度量。

 こんなエピソードもある。まだ、開幕の1番・高山、2番・横田の構想が決定する前だった2月末、金本監督は4番・福留孝介に頭を下げたという。

「若いやつに時間をあげてくれないか」

 二軍キャンプにいた高山を一軍に呼び、横田慎太郎、江越大賀ら若手を競争させる方針を固めた。ただ、打撃練習をしようにも人数の限りがある。だから、信頼の置けるベテランには一足早く沖縄を離れてほしい。暖かい沖縄が調整しやすいことは百も承知での“お願い”だったのだろう。

 勇気と努力が伴う失敗は責めない。舞台裏では部下にチャンスを与えるために頭を下げる。もし、この春、そんなボスに出会えたら、その時こそ、自らの幸運に感謝すべきだ。

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