ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
愛媛生まれの松山英樹が「仙台出身」?
会場アナウンスと、風化しない震災。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byAFLO
posted2016/03/11 10:50
アメリカと日本ではチャリティへの温度感が大きく違う。松山英樹もまた、自分なりの距離感を探している。
松山が手探りするチャリティとの距離感。
「あれだけの被害があったあと、すごいタイミングですよね。だから僕には特別な思いがある」
他選手たちにも倣い、松山は2013年にプロに転向してからバーディ、イーグルの獲得数に応じた復興基金をスタートさせた。チャリティ活動が盛んな米ツアーでは、プレジデンツカップなどの地域別対抗戦で、収益金の中から出場選手がそれぞれ寄付先を自由に決めて1500万円以上の寄付をする。松山は'13年大会で震災復興の義援金に充てた。
今年1月には、アマチュア規定に関する世界的なルール変更があった。アマチュアゴルファーはプロの試合に出場しても賞金を受け取れないが、予めチャリティを目的としていれば、主催者や統括団体の事前承認を得た上で、獲得賞金に当たる額を寄付できるようになるという改訂だった。実際のところは、依然として各ツアーでこの規定の活発な運用には至っていないが、震災直後のマスターズで松山がローアマチュアになったことが、規則変更の発端のひとつだったという。
とはいえ松山本人は、チャリティ活動の手法や、またそれを公にする意義についても模索している最中だという。
「例えば寄付先を決めても、それがどう扱われるのか、本当に必要な方に行き渡るのか……。それならば直接やればいいのかなとも思うし……」
松山「風化したとか言わないでくださいよ」
昨年7月には、被災地で開催される唯一の日本男子ツアー、ダンロップ・スリクソン福島オープンに、全英オープン出場直後の強行軍で参戦した。多くの人から感謝の声をかけられたが「僕はプレーをしていただけなのに」と実感は曖昧だった。
あの日から5年。自分には何ができるのか。
松山がいま、明確に答えられるそれは「思い出すこと」だという。
「10年、15年と経って忘れられてしまうだろうけど、それを思い出すことは大事。毎年3月11日が近づくにつれて、情報はきっと流れる。風化したとか言わないでくださいよ。僕の中では風化していない」
頭の中には地震発生時刻が正確に刻まれている。それは、被災地で暮らすひとりになった2011年のものだけではない。「阪神淡路大震災は1995年1月17日、(午前)5時46分。東日本大震災は(午後)2時46分。“46分”は同じなんですよね」