スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
クラブ内の政争に、不可解な采配……。
バレンシア、唐突な監督交代劇の内幕。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byMarcaMedia/AFLO
posted2015/12/04 10:40
就任2年目のヌーノ・エスピリト・サント監督は第13節のセビージャ戦後、辞任を発表。昨季はファンの心を掴んだように見えたのだが……。
背後にちらつくメンデスの影。
そこで見えてくるのはメンデスの影だ。
ヌーノは昨季、自身が就任するまで不動の右サイドバックとして活躍していたジョアン・ペレイラを、やはり不可解なことに数カ月にわたって招集外にし続けた。当時も納得のいく説明はなかったが、その理由はペレイラが用意された移籍話を断ったことで、メンデスの怒りを買ったからだと言われている(その後ペレイラはメンデスとの契約を解消している)。
その点、ネグレドはメンデスの契約選手ではないが、ヌーノは冬の移籍市場で大型ストライカーの獲得を希望しているという報道があとを絶えず、その有力候補にはラダメル・ファルカオの名が挙がっている。チェルシーで不遇をかこっているコロンビア代表FWは、やはりメンデスの顧客である。
結局ネグレド外しの真相は謎のまま終わってしまったが、いずれにせよ中心選手に対する不可解な冷遇が続いたことで、ファンやメディアのみならず、選手たちの多くがヌーノに疑問の目を向けるようになった。こうなるともう末期である。
アウェーの会場でも「ヌーノ、ベテ、ヤ!」。
この1カ月、ヌーノはホームゲームはもちろんのこと、練習の前後や遠征の移動中、遂にはベルギーで行われたチャンピオンズリーグのアウェー戦の会場でまで、「ヌーノ、ベテ、ヤ!」となじられ続ける日々を送ってきた。
それはいくらオーナーの支持を得ていると言っても、普通の神経をしていたら耐え難い状況である。
そしてそのような状況がチームに良い影響を与えるわけもない。もはやヌーノに他の選択肢はなかった。
会長、ゼネラルマネージャー、強化部スタッフ、そして監督。これでバレンシアは、3シーズンぶりのチャンピオンズリーグ出場権を勝ち獲った昨季の立役者を軒並み失うことになった。
「メンデスについて毎度会見で問われることには正直うんざりしています。もしメンデスがクラブをコントロールしているのであれば、ヌーノが辞めることはなかったでしょう」
ヌーノの辞任会見の翌日、レイ・ホーンはそういってメンデスの影を否定していた。