スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
クラブ内の政争に、不可解な采配……。
バレンシア、唐突な監督交代劇の内幕。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byMarcaMedia/AFLO
posted2015/12/04 10:40
就任2年目のヌーノ・エスピリト・サント監督は第13節のセビージャ戦後、辞任を発表。昨季はファンの心を掴んだように見えたのだが……。
チームとファンの関係を台無しにした事件。
しかし、ようやく手にしたチームとファンの関係を台無しにする事件が7月に生じる。ここ数年、経営難に苦しむクラブとチームを立て直してきたアマデオ・サルボ会長とゼネラルマネージャーのフランシスコ・ルフェテ、テクニカルセクレタリーのロベルト・アジャラが揃って辞任したのである。
彼らがクラブを去ったのは、チーム強化を巡って意見が異なるヌーノとの対立が原因だった。
大物代理人ジョルジュ・メンデスが無名時代に契約した最初の選手であるヌーノは、友人であるメンデスの仲介によってバレンシアのオーナーとなったリムとも親しく、リムがクラブ買収の一条件として要求したことで抜擢された。つまり強化部が選んだ監督ではなかったわけだ。
そのため就任当初から特にルフェテとは良い関係になく、今オフには強化部を無視して直接リムに補強のリクエストを出し、遂にはフベニールAの監督を務めるルベン・バラハをスポーツディレクターに任命することまで提案するようになった。
こうした動きを不服としながらも、サルボらは自分たちよりオーナーの寵愛を受けるヌーノの方が強い立場にあることを理解していたため、やむなくクラブを後にしたのである。
政敵は追い出したものの……。
こうしてヌーノはクラブ内の政敵を追い出すことには成功したものの、その代償はあまりにも高かった。オーナーの庇護の下でクラブの功労者たちを追い出したとして、ファンの反感を買ってしまったからだ。
しかも開幕後には、不可解な采配が目につくようになった。アルバロ・ネグレドへの冷遇はその最もたる例だ。
昨季の開幕直後に目玉補強として獲得し、今夏に3000万ユーロもの移籍金を払ってマンチェスター・シティから所有権を買い取った大型FWは、クラブ生え抜きのパコ・アルカセルと共に新たなプロジェクトの旗手となるべき選手だった。
そんな選手を、ケガでもないのに突如としてベンチ外とするようになった理由について、ヌーノはこれまで一度も納得のいく説明をしていない。
「あれだけゴールから離れた位置でプレーしていたら点を取るのは難しい」
「もっとアルカセルと一緒にプレーしたい」
当初はマルカ紙のインタビューにてネグレドが発したこれらの言葉が、ヌーノの怒りを買ったのだと言われていた。だがそれだけで5試合も6試合も外し続けるのはさすがに不自然である。