野球クロスロードBACK NUMBER
「由規のコネ入団」と言われた貴規。
BCで急成長、来年もトライアウトへ。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2015/11/25 10:30
今季所属した福島では23盗塁、30本の二塁打を放つなど走力でも能力を示している。
右肩のリハビリに取り組む由規からの説得。
貴規が家族に「野球を辞める」と告げたとき、長男の史規は「無理には勧めない」と寂しそうに弟の意思を尊重したが、他の3人からは大反対を受けた。両親が「どんな形でも続けるべきだ」と熱心に息子の現役続行を訴えかけるなか、貴規の心を激しく揺さぶったのは、次男の由規からの説得だった。
当時の由規は右肩の故障に悩まされながらも、復帰へ向け懸命なリハビリに取り組んでいた。そんな最中であっても、「諦めるな」と何度も説得してくれた。貴規が言う。
「本当なら僕が泣くべきところのはずなのにあっちが泣いてくれたり。何回電話をくれたかわからないくらいで。毎日リハビリとか自分のことで精一杯で余裕がないはずなのに、いつも僕のことを気にかけてくれていて。それでだんだん、『家族の気持ちを裏切れない』と思うようになりましたね」
「プロでも育成でしょ」という言葉に闘志が湧いた。
貴規の現役続行を願っていたのはファンも同じだった。家族の愛情によって野球への情熱を再確認した頃、しばらく“つぶやいていなかった”とツイッターを覗くと、大勢のファンから「野球を続けてください」、「いつまでも待ってるぞ」と激励のメッセージがたくさん届いていた。それは、かつて「兄貴のコネ」と揶揄されてきた貴規が、「俺はプロなんだ」と自覚できた瞬間でもあったのだ。
独立リーグとはいえ、プロとして再出発する覚悟を持った。だが、「一度切れたモチベーションをすぐに戻すことはできないかもしれない」と貴規は不安も口にしていた。
NPBで4年間プレーした矜持、そしてプロとしてのモチベーションを再燃させたのは悔しさからだった。
「プロでやっていたって言っても育成でしょ。独立でも結果なんて出せないって」
福島ホープスに入団直後、チームメートからそんな陰口が囁かれていることを知った貴規は、「それで火がついた」と語る。
「めちゃくちゃ悔しかったですね。『貴規は独立に来てパフォーマンスが落ちた』とは絶対に言われたくなかったんで。だから、『自分がホープスを引っ張ってBCをもっとメジャーにしてやるんだ』くらいに思いましたし、本当に燃えましたよ」