Jをめぐる冒険BACK NUMBER
浦和と川崎の“ミラーマッチ”分析。
似てるのは形だけ、似てないものは?
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2015/11/11 10:30
中村憲剛をどこに配置するかで、川崎は戦略的な幅をピッチ上に実現することができる。
柏木が語った、“段差”の必要性。
川崎攻撃陣のプレスがあまりに激しいときは、無理をせずGK西川周作まで戻して攻撃をやり直し、少しでも緩めば、すかさず縦パスを繰り出していく。
パスが通れば浦和の思うツボだ。角度をつけたワンタッチパスを駆使して、マークのズレを修正させないほどスピーディにボールを動かし、ゴールに迫る。
そこで川崎は、後半に入ってプレスをスタートする位置を下げ、陣形をコンパクトに保って縦パスを通させないようにし、主導権を握り返すことに成功する。
73分、中野がドリブルで独走した決定機や、後半アディショナルタイムにゴール前に4人が走り込んで迎えた田坂祐介の決定機のどちらかが決まっていれば、ゲームは川崎がモノにしていたに違いない。
浦和にとって悔やまれるのは、後半に入って前線の動きが衰えてしまったことだ。
柏木陽介の言葉を借りれば「前線が張り付いてしまって、ボールを入れにくい状態だった。もっと“段差”を作らなければいけなかった」ということになる。
2シャドーやウイングバックが守備に奔走したから川崎の攻撃を最後のところで止められたわけだが、それによってスタミナを切らしてしまったとも言える。
本来は中盤にいるはずの両チームのマエストロ――中村と柏木が、前者は最前線から姿を消すことでキーマンとなり、後者は最後列に下がってタクトを振るうという違いも興味深かった。
個ありきの川崎、オートマティズムありきの浦和。
鏡のようでちょっと違ったのは、形の話だけではない。
川崎のチーム作りは、まずは個の能力を前面に押し出し、それをチームとしてまとめあげることでチーム力を高めようとするもの。一方浦和のそれは、トレーニングで徹底的に習得されたオートマティズムが先にあり、その枠組みの中で個の能力が大きく引き出されるというもの。
ともに「ボールを支配し、ゲームを支配する」スタイルを掲げているが、成り立っているベースが異なるように感じられる。
もっとも、両チームとも「詰めが甘い」という点においては、鏡に映したようにそっくりだったが。